この年初舞台を踏んだ81期生には星組トップ真飛聖と宙組トップ大和悠河、花組トップ娘役ふずき美世、雪組トップ娘役舞風りらがいた。後男役では現在も専科で活躍している悠真倫、蘭香レア、椿火呂花が、娘役には月組副組長だった花瀬みずか、妃里梨江、祖母と母の名前を継いだ三代目瀧川末子、などがいた。

 

 この年1~2月公演で幕を開けた花組「哀しみのコルドバ/メガ・ビジョン」は安寿ミラ・森奈みはるの退団公演だったのだが、折からの阪神淡路大震災により公演期間半ばで中止を余儀なくされ、さよならショーも中止となってしまった。生徒は全員無事だったものの、残念ながら劇団関係者で犠牲になった方が出てしまう。ただしその2年前に開場したばかりの大劇場の被害が甚大だったので、2~3月予定だった月組「ハードボイルド・エッグ/EXOTICA!」は大劇場公演中止、東京公演のみとなってしまった。

 

 「コルドバ」は10年前の1985年に峰さを理主演で上演されたものの再演だったが、当時二番手日向薫と三番手紫苑ゆうが演じた役を再演では愛華みれと紫吹淳が演じた。二番手真矢みきは初演で当時のWヒロインの一人湖条れいかが演じたエバの愛人で、当時悪役専科とも言いえた新城まゆみが演じたロメロ役に回った。初演では脇役だった悪役を、トップ安寿に対抗する敵役として役割を大きくしたもので、この後も「コルドバ」は何度か再演されているがこのバージョンで上演されているようだ。因みにもう一人のヒロイン南風まいが演じたアンフェリータを純名里沙が演じたが、彼女は当初雪組で有望新人娘役として名前を上げ、前年1994年にNHK 朝ドラ「ぴあの」に主演したのち花組に組替えとなっていた。大震災で一旦は公演中止となってしまったものの、当時劇場・飛天(現梅田芸術劇場)で同年3月に1か月公演を予定していた細川たかしが公演期間の後半を安寿のために譲ることとなり、公演の続きを行うことができた。そして4月の東京公演後に復興なった宝塚大劇場で、改めて安寿のさよならショーが上演されたのだった。

 

 その後大劇場は突貫の復旧工事の結果、4~5月星組「国境のない地図」で無事公演の再開を果たすことができ、81期生も初舞台をつつがなく踏むことができた。またこの公演は麻路さきの新トップ披露公演であり、相手役に引き続き白城あやか、二番手稔幸、三番手格に真織由季という体制となった。「国境」はベルリンの東西分断を舞台にした物語で、星組得意の近代史に基づく政治色の強いお話。麻路はピアニスト役で劇中得意のピアノ演奏も披露した。

 

 5~6月雪組「JFK」は小池修一郎作・演出で、米国第35代大統領ジョン・F・ケネディ大統領の生涯を描いたお話。一方1991年にケビン・コスナー主演で公開された同名映画「JFK」は暗殺事件の謎の解明がテーマだったので、同名タイトルではあったが2作品は対照的な内容となっていた。しかし、ずっと以前宝塚では公演タイトルをつける際に、過去同名作品があった場合は避けるようにするというルールがあると聞いた記憶があるのだけれど、最近はもう関係ないのだろうか?

 

 7~8月花組「エデンの東/ダンディズム!」は真矢みきの大劇場トップお披露目公演。純名里沙とコンビを組んで、二番手に愛華みれ、三番手格に紫吹淳と海峡ひろきが並ぶ体制となった。「エデン」ではジェームス・ディーンの向こうを張ったような、真矢の濃い演技が印象的だった。「ダンディ」はロマンチック・レビュー第9弾で、真矢の更に濃い男役芸が映える作品だった。その後、2006年に「ネオ・ダンディズム」、2021年に「モアー・ダンディズム」と続編が上演されている。

 

 8~9月月組「ME AND MY GIRL」は8年振り天海祐希主演での再演となったが、トップ在位2年での退団公演となった。予想外に早い退団だったが、トップに決まった時に既に2年後を目途に退団を決めていたと後で聞いた。また相手役麻乃佳世も同時に退団となった。10~11月星組「剣と恋と虹と」は「シラノ・ド・ベルジュラック」の舞台化。後の2020年に同じく星組公演ながら当時専科にいた轟悠主演の外箱公演で、「シラノ・ド・ベルジュラック」として上演されている。11~12月雪組「あかねさす紫の花」は1976年花組で初演の後、翌77年雪組に続き3度目の再演となった。初演時は当時花組のWトップだった榛名由梨と安奈淳が主演だったため、大海皇子と中大兄皇子は対等に描かれたが再演では汀夏子の大海が単独主役となり、この時も一路真輝の大海が主役となって高嶺ふぶきと轟悠が中大兄と天比古をWキャストで演じた。

 

 バウホールでは6月に当時星組の若手ホープだった絵麻緒ゆう主演で「殉情」が上演されるが、後の2002年にも再演されて絵麻緒の代表作となった。10月月組「ある日どこかで」は1980年クリストファー・リーブ主演の映画を舞台化したもので、以前から天海祐希が上演を希望していたという。天海の主演舞台というと記憶の残るのは「風と共に去りぬ」か「ME AND MY GIRL」で、オリジナル作品は余り印象に残ってない。この「あの日」はオリジナルの代表作になったかもしれなかったが、やはり今一つはじけ切らなかった感じ。一つの理由として、映画版でヒロインのエリーズを演じたジェーン・シーモアが見せた妖艶なヒロイン像が、麻乃佳世の任ではなかったという事もあるような気がする。

 

 1995年は大震災による公演中止、大劇場閉鎖という大災難と、それに伴う安寿ミラ・森奈みはるの退団公演中断と劇的な復活劇に天海祐希の予想外の早期退団。そして新トップ星組麻路さきと花組真矢みきと純名里沙の新コンビ誕生と、様々大きな激動を経験した年となった。