tree15. 痴呆 ①痴呆の診断
外来患者さんの中には、「最近物忘れがひどくて、痴呆になってるのか心配」と訴えてくる人も少なくありません。自分で訴えてくる場合は、だいたい痴呆でないことが多いのですが、やはり本人にとっては心配なことこの上ないですよね。今回は、「痴呆」について紹介します。
まず、「物忘れ」の原因が「老化」によるものなのか、「痴呆」によるものなのかの区別が必要です。以下に簡単に違いを述べておきます。
<老化による物忘れ>
①原因…加齢
②自覚…あり
③記憶障害…とっさに思い出せない、体験の一部を忘れる
④日常生活…ほぼ支障がない
⑤進行状況…少しずつ進行
<痴呆による物忘れ>
①原因…脳の病気
②自覚…なし
③記憶障害…体験自体を忘れる
④日常生活…支障をきたす
⑤進行状況…どんどん悪化する
また、うつ病の場合でも記憶障害を訴えることがあり、痴呆の初期にうつ状態になっている場合もあります。以下に、うつ病との鑑別を簡単に述べておきます。
<うつ病による物忘れ>
①症状の訴え方…物忘れを強く訴える
②日常生活…ほぼ自立している
③CTや脳波所見…異常がないことが多い
④抗うつ薬に対する反応…よい
<痴呆による物忘れ>
①症状の訴え方…症状を軽めに言ったり、否認する
②日常生活…支障をきたす
③CTや脳波所見…しばしば異常を認める
④抗うつ薬に対する反応…悪い
さて、「痴呆」を疑われたら、「知能検査」「画像検査」「血液検査」の3つが必要になります。
「知能検査」…痴呆のスクリーニングと、痴呆のタイプを知る上で必要です。「長谷川式簡易知能評価スケール」と「mini mental state examination」がよく使われます。以下に、長谷川式を添付します。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール
| 氏 名 年 令 (男・女) 年 月 日生 | ||
| お年はいくつですか?(2年までの誤差は正解) | ||
| 今日は何年の何日ですか?何曜日ですか? (年、月、日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ) |
0,1 0,1 0,1 |
|
| 私たちがいまいる所はどこですか? (自発的にできれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択をすれば1点) |
||
| これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。あとでまた聞きますのでよく覚えておいて下さい。 (以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に○印をつけておく) 1:a)桜 b)猫 c)電車 2:a)梅 b)犬 c)自動車 |
0,1 0,1 |
|
| 100から7を順番に引いて下さい。 (100-7は?、それからまた7をひくと?と質問する。最初の答えが不正解の場合、打ち切る。それぞれ1点。) |
0,1 |
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| 私がこれから言う数字を逆からいって下さい。 (6-8-2,3-5-2-9を逆に言ってもらう。3桁逆唱に失敗したら、打ち切る) |
0,1 |
|
| 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみて下さい。(自発的に回答があれば各2点、もし回答が無い場合以下のヒントを与え正解であれば1点) a)植物 b)動物 c)乗り物 |
b:0,1,2 c:0,1,2 |
|
| これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言って下さい。(時計、鍵、タバコ、硬貨など必ず相互に無関係なもの) | 3,4,5 |
|
| 知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まったり、約10秒間待っても答えない場合はそこで打ち切る) 0~5=0点、6=1点、7=2点、8=3点、9=4点、10=5点 |
3,4,5 |
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| 満点30点 20点以下 痴呆 21点以上 非痴呆 | 合計点数 | |
この長谷川式では、質問に受け答えのできる「言語性知能」をみます。これに、さらに指示に従って時計の絵を描いてもらったり、積み木を組み立ててもらったりして、「動作性知能」の評価を加えたりすることもあります。
「画像検査」…主にCT、MRI、脳血流シンチの3つがあります。まずはCTで脳梗塞や脳出血を起こしていないか、脳の萎縮はないか、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの病変がないか、を調べます。その後、必要に応じてMRIや脳血流シンチを行います。
「血液検査」…痴呆の原因として、「甲状腺機能低下症」や「悪性貧血」、「肝性昏睡」などの病気の場合があるため、血液検査でこれらの病気を否定することが必要です。とくに、元気のない声の低い高齢女性は、甲状腺の病気の場合があるので、血液検査をして、加療する必要があります。
「痴呆」患者は、自覚がない場合が多いので、まわりの家族の注意が必要です。また、正常圧水頭症など、治療法が確立されている痴呆の場合もありますので、「痴呆」の診断は早いにこしたことはありません。家族に疑わしい方がいましたら、一度専門家に診てもらったほうがよいでしょう。
今回はここまでにします。次回は、痴呆の種類についてお話します。