秋になると、お弁当を持ってどこかへ出かけたくなる日があります。

でも今回気になったのは、きれいに詰めた行楽弁当ではありません。

朝、自分で作ったおにぎり、卵焼き、ウインナー。

それくらいの普通のお弁当です。

豪華でもないのに、仕事をしている途中で、

「あ、今日はお弁当があるんだった」

と思うと、なぜか少しうれしい。

そして11時半くらいになると、昼休みがちょっと待ち遠しくなります。

? 今回の疑問
自分で作った弁当は、なぜ豪華でもないのに昼まで楽しみになるのでしょうか。
おいしさだけではなく、「数時間後に楽しみがある」と先に分かっていることも関係しているのでしょうか。

考えてみると、これは食べている瞬間だけの話ではありません。

朝に作った時点から、もう昼の楽しみが始まっているような気もします。

豪華じゃないのに、なぜ昼が待ち遠しい?

まず考えたのは、単純に「好きなものを入れているから」でした。

自分で作るなら、嫌いなものをわざわざ入れる必要はありません。

ご飯の量も、卵焼きの味も、おかずの組み合わせも自分で決められます。

でも、それだけなら食べる直前に作っても同じはずです。

朝に作った弁当には、もうひとつ特徴があります。

食べる数時間前から「今日の昼はこれ」と決まっていることです。

! 調べる前の仮説
弁当が楽しみなのは、豪華だからではなく、朝の時点で「数時間後の小さな楽しみ」を先に確定しているからでは?
さらに、自分で好きなものを選び、自分で作ったことも、その楽しさを少し強めているのかもしれません。

みんなも同じ? SNSやアンケートを見てみた

まず気になったのは、この感覚が私だけなのかということでした。

SNSを探してみると、日本だけでなく海外でも、作り置きや弁当を始めて「昼食を楽しみにするようになった」という投稿が見つかります。

海外の掲示板Redditの「Bento」コミュニティでは、自分用の弁当作りを始めた人が、毎日ランチを楽しみにできるのがいい、と投稿していました。

別のコミュニティでも、あらかじめ昼食を用意するようになって「食べるのを忘れるのではなく、昼食を楽しみにするようになった」という声があります。

弁当調査で挙がる理由も合わせて、今回の疑問に近い感覚を短く整理すると、こんな感じです。

※画像内の文章は、SNS投稿や各種調査で見られる傾向を今回のテーマに合わせて短く整理したものです。特定の回答者の文章をそのまま引用したものではありません。

どうやら「今日の昼が少し楽しみ」という感覚自体は、それほど珍しいものではなさそうです。

「マイ弁当」は増えている?

では、そもそも自分で弁当を持っていく人は増えているのでしょうか。

ライフスケープマーケティングが、首都圏30km圏に住む20〜64歳の単身生活者を調べたデータがあります。

平日の昼食で自宅から弁当を持参する割合は、

2010年度 8.9% → 2025年度 15.0%

15年間で約1.7倍になっていました。

男性では約4.6%から11.4%へと、およそ2.5倍です。

さらにニチレイフーズの2026年調査では、弁当を作る人のうち81.2%が「自分用」に作っていると回答。2017年の調査開始以降で最も高い割合でした。

出典:ライフスケープマーケティング「シングルスの平日昼食実態を食MAP®で調査」、ニチレイフーズ「全国お弁当事情に関する調査2026」

ただし、「日本人全体で弁当作りが一気に増えた」とまでは言えません。

マイボイスコムの2022年調査では、自分で弁当を作る人は4割弱で、過去調査と比べても急激な増加ではありません。

興味深いのは、「誰かに作ってもらう弁当」だけでなく、「自分のために自分で用意する弁当」の存在感が強くなっていることです。

しかも、弁当は豪華になっているわけでもありません。

同じライフスケープマーケティングの調査では、男性の持参弁当の平均品数は2015年の3.3品から2025年には2.1品へ減っています。

つまり、シンプルな弁当でも十分に「マイ弁当」になっているわけです。

弁当を作る理由は節約だけではなかった

弁当を持っていく理由として、まず思い浮かぶのは節約です。

実際、マイボイスコムの2022年調査でも、自分で弁当を作る理由の1位は「食費の節約」で50.5%でした。

でも、その後には、

手作りの方がおいしい。
好きなものを食べられる。
分量を調節できる。

といった理由も並んでいます。

さらに、「自分で作った」ということ自体にも少し面白い研究があります。

2016年に『Health Psychology』に掲載された実験では、女性120人を対象に、自分で準備した食品と他人が準備した食品への好みを比較しました。

結果は単純に「何でも自作ならおいしく感じる」というものではありませんでしたが、健康的な食品では、自分で準備した方が好まれやすいという結果が出ています。

別の研究でも、自分で作ったミルクシェイクの方を高く評価する結果が報告されています。

もちろん、おにぎりや卵焼きの弁当を直接調べた研究ではありません。

それでも、「自分で手をかけたものだから少しうれしい」という感覚には、まったく根拠がないわけでもなさそうです。

弁当箱まで生活に合わせて進化していた

調べていて、もうひとつ面白かったのが弁当箱です。

今の弁当箱は、単に「料理を詰める箱」ではありません。

Nadiaが2026年に行った調査では、専用の弁当箱ではなく、保存容器・コンテナを主に使う人が28.6%いました。

その理由は、

電子レンジで温めたい 59.8%
詰めやすく洗いやすい 52.2%
汁漏れしにくい・密閉性 43.4%

でした。

メーカーの商品を見ると、さらに生活感がよく分かります。

サーモスには、奥行き6.5cmで「スリムなカバンにもすっきり収納」と案内されている2段タイプがあり、電子レンジや食洗機にも対応しています。

象印にも「バッグのスキマに入れやすいタテ型スリムタイプ」という保温弁当箱があります。

つまり今の弁当箱は、

作る → 持ち運ぶ → 温める → 食べる → 洗う → バッグに収める

という一日の流れまで考えて進化していました。

弁当を生活に合わせたのか、弁当箱の方が生活に合わせてきたのか。

道具の側から見ても、「自分で昼を用意する」という行動はずいぶん続けやすくなっています。

心理学では「未来の楽しみ」をどう考える?

ここで、最初の仮説に戻ります。

心理学には「savoring(セイバリング)」という考え方があります。

簡単に言えば、良い経験から生まれるポジティブな気持ちを、意識して味わうことです。

研究では、この「味わう」を時間で分けて考えます。

これから起きる楽しいことを楽しみにする「anticipation(期待)」
今起きていることを楽しむ。
過去の楽しかったことを思い返す。

つまり、楽しい出来事は「起きた瞬間だけ」楽しめるわけではありません。

起きる前から楽しむことができるというわけです。

実際、将来の好ましい出来事を予期しているときの脳活動と、本人が感じる幸福感との関連を調べた研究もあります。

ただし、ここは注意が必要です。

この研究は「弁当を作ると幸福になる」と証明したものではありません。

あくまで、楽しい未来を予期すること自体が、現在のポジティブな感情と関係する可能性があるという話です。

でも、朝のお弁当に当てはめて考えると、かなりしっくりきます。

朝7時。
「今日のお昼は、さっき作ったおにぎりと卵焼き」

10時。
「あ、今日は弁当あるんだった」

11時30分。
「そろそろ昼だ」

12時。
ようやく食べる。

もしかすると、お弁当の楽しみは12時に始まるのではなく、朝に作った時点ですでに少し始まっているのかもしれません。

海外でも「昼を先に用意する」

では、これは日本の「弁当文化」特有の感覚なのでしょうか。

もちろん、日本のようにご飯と複数のおかずを箱に詰める弁当文化は特徴的です。

でも、「家から昼食を持っていく」という行動そのものは海外にも普通にあります。

英国政府の食生活調査では、働いている16歳以上の人に職場での食事について尋ねたところ、59%が食べ物を家から持参すると回答しています。

英国では「packed lunch」、米国では「lunchbox」や「meal prep」といった形で、昼食をあらかじめ用意する習慣があります。

中身はサンドイッチだったり、作り置きだったり、おにぎりとは全く違ったりします。

それでも、「数時間後に食べるものを先に決めておく」という部分は共通しています。

そう考えると、昼が楽しみになる感覚の中心は、必ずしも日本式の「弁当箱」そのものではないのかもしれません。

調べてわかったこと
自分で作った弁当が楽しみになる理由は、ひとつではなさそうです。
好きなものを選べること、自分で作ったこと、食費や健康面を自分で調整できること。そして何より、朝の時点で「昼にこれを食べる」という小さな楽しみを先に決めていること。
心理学の「未来の楽しい出来事を予期する」という考え方とも、よく重なっていました。

朝に、昼の楽しみを予約する

今回、最初に思い浮かべた弁当は、おにぎりと卵焼きとウインナーくらいでした。

特別でも豪華でもありません。

でも調べてみると、むしろ今は、そうしたシンプルな「マイ弁当」が増えていました。

そして心理学の研究を見ていくと、人は楽しい出来事そのものだけでなく、「これから起きる」と思っている時間にも楽しさを感じられるようです。

そう考えると、朝に弁当を作るというのは、単に昼食を準備しているだけではないのかもしれません。

数時間後の自分に、小さな楽しみをひとつ予約しておく。

だから11時半になると、少し時計が気になる。

豪華なお弁当でなくても、朝のうちに昼の楽しみを用意しておくと、それだけで一日が少し変わるのかもしれません。

参考にした資料

株式会社ライフスケープマーケティング「シングルスの平日弁当持参率が15.0%に上昇」
資料を見る

ニチレイフーズ「全国お弁当事情に関する調査2026」
資料を見る

マイボイスコム「弁当に関するアンケート調査(第4回)」
資料を見る

Nadia「2026年春のお弁当作りアンケート調査」
資料を見る

サーモス「フレッシュランチボックス DJT-601W」
商品情報を見る

象印マホービン「保温弁当箱 SZ-JB02」
商品情報を見る

Dohle, Rall & Siegrist「Does self-prepared food taste better? Effects of food preparation on liking」Health Psychology
研究概要を見る

Bryant「Current Progress and Future Directions for Theory and Research on Savoring」
研究を見る

Luo et al.「Well-being and Anticipation for Future Positive Events」
研究を見る

英国政府「National Diet and Nutrition Survey 2019 to 2023」
英国政府の資料を見る

参考:Reddit「r/Bento」自分用弁当についての投稿
投稿を見る

※各調査は対象者・調査方法・調査時期が異なるため、数値を単純に比較できない場合があります。また、心理学研究は弁当そのものの効果を直接検証したものではなく、今回の疑問を考える手がかりとして参照しています。

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