補聴器には耳の後ろに掛けて使う耳掛け式と、
耳の中に入れて使う耳穴式とがある。
耳穴式は耳の形に合わせて作るオーダーメードも可能だ。


そして、聞こえづらくなった音を音域ごとに強調する事もできる。
私の場合は高音域の聴力低下に伴う耳鳴りの改善も重要な目的である。
自分への陰口を聞きたくないとして一旦断念した補聴器であったが、やっぱり買う事に決めて補聴器専門店へ向かった。
耳穴式を選択し、シリコーンで耳穴の型を取ってもらう。

シリコーンは専用注射器で注入する。

その前に、耳の中をチェックされる。

直ちに結果の説明があった。
「ご安心下さい。今回、耳クソを示唆する所見は認められませんでした」
その言葉を聞いて私は胸をなで下すと共に周りのお客さんからも一斉の拍手と安堵が示された。
耳穴の奥には綿を入れ鼓膜を保護している。

5分後には硬化して私の耳穴の型が出来上がった。

完成は1週間後だ。
専用工場で3Dプリンターにより作成するそうだ。
デモ機を試装着してみる。

デモ機では音域ごとに調整を行い聴感の確認を行った。
今まで音は前方からのみ聞こえていたが、装着してみると身の周り全周からあらゆる音が煩いほど聞こえてくる。
これが正常な人の聞こえ方であると聞き、驚きで虚脱状態に陥った。
いかに聞こえていなかったか。
こんなものを使うとなったら、私の後ろで囁かれる小声の悪口も聞こえてくることだろう。
帰宅すると、
女将(女房)が風呂上がりの団子のような肉体を体重計に乗せ、何やらブツブツと言いながら罪もない体重計を足で蹴っ飛ばしている。
今後は、こういった聞きたくもないブツブツも聞こえてくるはずだ。
聞こえない幸せという選択もあるが、今からは聞きたくない声も正面から受け止め、聞こえる事の不幸と折り合っていく必要がある。