不動産屋さんから、この家に入る時、

「ネズミが出るらしいですが、大丈夫ですか?」

と言われた。

家が気に入っていたので、

あまり気にせずに、引っ越しをした。

1、2年は、さほど気配はしなかったが、

ネズミ年の今年、急に、ネズミが活性化しはじめた。

ボクの仕事部屋のエアコンの室外機のつなぎ目

をかじり、自由に外と家を行き来する、やつら。

そこで、室外機の下に、ひまわりの種をえさにした、

ネズミ粘着シート(ネズミぺったん)をしかけ、

毎日、のぞいていた。

今年の、梅雨の頃のことである。


おっ、ネズミがかかってる。

よく見ると、スズメだった。

すでに、死んでいた。

なんてかわいそうなことを

しちゃったんだろう・・・。

玄関を、開けるとかみさんが

ボクの顔色を見て、

「何かあったの?」と言ってきた。


「スズメが、ぺったんで、死んでた・・・。

見ない方がいいよ、俺が始末するから・・・」


「私の責任でもあるから、・・・見る」と言う、かみさん。


仕方なく2人で、ぺったんの所にいった。

亡骸の前で立ち尽くしていた時、

ぱちっと、目を開けた、スズメ。

「生きてる!!!」


それからは、戦争のような忙しさ。

野鳥の保護のことを聞くため、

いろんな所に、電話をかける、かみさん。


ぺったんを剥がそうとすると、あばれて

体力を消耗する、スズメをなだめながら

慎重に粘着を外す、ボク。


野鳥保護の役所に電話をすると、

ぺったんにくっついたまま、放置

しておいてくれと言われたそうだ。

スズメ1羽の命は、そんなに軽いものなんだろうか?

かみさんが、食い下がり、なんとか、

獣医さんを、紹介してもらった。

そして、10分後、紹介された獣医さんから

電話がかかってきた。


電話で獣医さんは、「うちに連れてこられても、

小鳥みたいな小さいものは、デリケートで

移動中、死んでしまう事が多いでしょう。

だから、食用油でべたべたをはがしてあげてから

シャンプーで洗い流して、

保温してください。

カイロは酸欠になるので、使わないでくださいね。

遠赤外線ストーブが、いいでしょう。

餌は、水で溶いたはちみつを、

くちばしに、たらしてあげてください。」

と言ったそうだ。

野鳥の保護の許可についでは、

さっきの電話で大丈夫だとの、

ことだった。


ダンボールに、空気穴を開け、

タオルを敷いてあげる。

パン屑や、お米、スズメの好きそうな

ものを、小皿に入れて、端に置いた。

はちみつがなかったので、

メープルシロップをうすめて、

飲ませる。

飲ませ方がむずかしいようだが、

3時間おきに、かみさんが与えた。


2日もすると、ダンボールをガリガリ、

ごそごそ、する位、元気になってきた。

ただ、まだ、50センチぐらいしか飛べない。


3日目になると、かなり元気になった。

腰高窓のふちまで飛びあがれるようになった。

あしたから、天気予報では晴れの日が続く予報。

このまま、もう少し保護を続けるべきか

迷ったが、かみさんのやつれっぷりを見て、

明日の昼間、放す事にきめた。


4日目、最後の食事を、たっぷりあたえ、

庭へ、そっと放した。

草むらに、しばらくかくれてから、

塀に、ポーンと飛びあがり、

よちよちと、塀伝いに消えていった。


それから、庭に、パン屑を置くようになった。

2、3日すると、あきらかに、

毛並みのおかしなスズメが、

仲間を引き連れ、戻ってきた。

親分面で、パンを食べる、頭に寝ぐせのある

スズメ、チーちゃん。

それが、僕たちと、チーちゃん達が

仲良くなった、きっかけの物語でした。





洗っても、油でギラギラしている、チーちゃん。

保護、1日目の写真。

スズメがこんなに、かわいいものだとは、

この日まで、思ってもいませんでした。