検討:汎用機器・記録媒体の取扱いについて | 音楽リスナーとPCユーザのための著作権パブコメ準備号

検討:汎用機器・記録媒体の取扱いについて

 ここでは、ipodなどのHDDを使った音楽プレイヤーへの課金や
私的録音録画補償金制度そのものの見直しまで踏み込むことは避けておきます。
 つまり、現在行われているMDや音楽用CDRやDVDRやビデオやカセットデッキへの課金、
およびipodなど音楽用HDD内蔵型プレイヤーへの対象拡大には関心がない、
または積極的に賛成だが、汎用HDDへの拡大には反対、という人を念頭において書いています。
 また、他のエントリと重複する部分も多いです。


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 パソコン内蔵であれ外付けであれ、ハードディスクドライブは、
録音や録画など、著作物をコピーすることが出来るから、
ぜんぶまとめて課金して、著作権者の間で分配したいという要望があります。
→私的録音録画補償金の見直しについて(社団法人日本音楽著作権協会等関係権利者7団体作成資料)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05050301/005.htm
→私的録音録画補償金の見直しについて(デジタル私的録画問題に関する権利者会議作成資料)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05050301/006.htm

 実は、既に、MDや音楽用CDRやDVDRやビデオやカセットデッキを買うときに、
ぼくたちは金を払っています。
 会議や自作曲の演奏の録音や子供の運動会の録画に使うのだとしても、払っています。

これが私的録音録画補償金制度というやつです。

 録音や録画に使われない場合は、返してくれるということになっていますが、
そもそも、ほとんどの人がこの私的録音録画補償金制度を知らないうえ、
→「私的録音録画補償金制度」の内容を知らない消費者は8割以上~BSA調査
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/06/29/8208.html

返して貰ったのは、今のところたぶん一人、申請中の人が一人。
→私的録画補償金、初の返還額は8円(05/06/22)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0506/22/news088.html
→KNOnline.NET/ 【レポート】私的録音補償金返還申請をしてみる!
http://www.knonline.net/d/?date=20050818

 80円の切手を貼ってやりとりして、やっと8円が戻ってくるような、
泣き寝入りを促進させるような仕組になっています。


 さあ、これがHDD全体に広がったらどうなるでしょう。

 そして、音楽だけではないかもしれません。

 今回は、ipodなどからの流れで、特に音楽に焦点が当たっていますが、
HDDで複製が可能なものは、音楽だけでなく、テキストや画像も含まれます。
これらの複製はどうなるでしょう。

 
 「私的録音録画補償金の見直しについて」という文書を小委員会に提出している<デジタル私的録画問題に関する権利者会議>の構成団体は、社団法人音楽出版社協会/社団法人全日本テレビ番組製作社連盟/協同組合日本映画製作者協会/社団法人日本映画製作者連盟/社団法人日本映像ソフト協会 社団法人日本音楽事業者協会/社団法人日本音楽著作権協会/協同組合日本脚本家連盟/社団法人日本芸能実演家団体協議会/協同組合日本シナリオ作家協会/有限責任中間法人日本動画協会/社団法人 日本文藝家協会/日本放送協会/社団法人日本民間放送連盟/社団法人日本レコード協会となっています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05050301/006.htm

今後、補償金制度がすべての著作物に拡大される可能性があります。

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 もちろん、小委員会では、汎用機器等は対象とすべきではないとする意見が多数」だったようです。理由として、次のようなものが挙げられています。

(1)録音や録画を行わない購入者からも強制的に一律に課金することになり、不適切な制度になる。また、補償金返還制度も機能しづらい。
(2)課金対象を無制限に拡大することにつながる。
(3)実態として、他人の著作物の録音・録画が利用の相当割合を占めるとは考えにくい。
(4)現行の補償金制度の問題点を増幅させる結果を招く。

 ところが、対象とすべきではないという意見が多数だったからといって、安心してはいけないというのが、著作権関係の困ったところです。

 過去のパブコメ
http://ameblo.jp/chosaku/entry-10004295013.html


 課金対象を汎用のHDDに広げることに反対する、と、一言でもよいので、
パブリックコメントを送りましょう。

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理由を示すことは、比較的簡単です。

著作権分科会 法制問題小委員会(第5回)議事録に、こういうやりとりがあります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05070401.htm

(前田委員) 私は中長期的にも私的録音録画補償金制度をただちに廃止の方向で検討を開始するということではなくて、まず問題点は何か、問題点があるとすれば、それを改善する手段は何かないだろうかという検討が先に来なければいけないと思います。
 その意味で、今の一律徴収、すなわち機器・記録媒体を購入する人から、まず購入段階で一律に徴収をして、私的録音録画に用いないということを証明した人に返還をするというのが現在の制度ですが、その返還制度については先程御紹介がありましたように、8円返してもらうのに80円かかるというあまり機能しないものになっているという問題点が指摘されているとすれば、支払いと返還の制度、一律に徴収をして私的録音録画に用いないことを証明した人に事後的に返還をするという制度について、何か代替案はないのだろうかという検討をしなければいけないのではないか。
 ではどういう代替案があるかという点については、私としてはまだ具体案を考えているわけではなくて、代替案を考えるとすれば、どうしても自己申告的なものにならざるを得なくて、山本委員から御指摘がありましたように、仮に自己申告的なものになったら誰も払わないだろうという問題点が出てくるのかもしれないですけれども、一律徴収事後的返還という制度の代替案が何かないだろうかという問題意識を持っています。

(中山主査) 恐らく立法的にはそれしかないということで立法したと思うのですね。ですから、何かいい案があったらぜひ御提案願いたいのですけれども、なかなか。

(松田委員) 中山委員が言った改正制度ですね、個別の。その制度を作っておかなかったら、これは憲法違反になるのでしょうか。

(中山主査) 可能性はあると思います。ユーザーは強制的にコピーを徴収するわけである。これはコピーに対する補償金ですから、コピーをしない人から強制的にお金をとって全然返しませんというのは、他人の財産権を侵害したことになる可能性は多分にあると思います。これは罰金でもなければ、税金でもないわけで、著作権使用料という私的請求権ですね。あと、誰が支払うかという点についてももちろん問題あるのですけれども、違憲になる可能性はあると思います。

つまり、
憲法上の財産権の侵害になりうる制度であるにもかかわらず、返還制度が機能していない。
制度が機能していない理由として、個別に申告する必要があるにもかかわらず、まったくといっていいほど制度が認知されておらず、返還額がわずかであるのに対して、かかる手間や費用が大きすぎるということが挙げられます。

さて、どれくらい認知されていないのか再確認しましょう。

デジタル録音・録画機器が広範に普及しているにも関わらず,こうした補償金制度自体の存在について,消費者への周知が徹底されていない現状は,経済産業省としても問題だと考えている。ある消費者団体の幹部によれば,10の消費者団体のうち本制度を知っていたのは1団体のみだったという。消費者個人のレベルでは,多くの人がこの制度の存在を知らないのではないかと思う。
知財Awareness - ほとんどの消費者が知らずに払っている「私的録音録画補償金」―経済産業省・政策企画官の藤原 豊氏に聞く(上)
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/meti20050425.html
「私的録音録画補償金制度」の内容を知らない消費者は8割以上~BSA調査
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/06/29/8208.html

まして、著作権分科会法制問題小委員会(第3回)議事録に提出された「資料2-2:資料5号」によれば、「デジタル私的録音を行なうユーザー」の56%しかパソコンを私的録音に使っていないという現状があります。出荷されるハードディスクドライブのうち、私的録音に使いうる形で購入されるのがどれくらいの割合なのか(普通の企業の机の上で使っているようなものは、私的録音には使わないわけで)、パソコンユーザーのうち、デジタル私的録音をおこなうユーザーがどれくらいいるのか、所有するHDDのうち、私的録音に使うのはどれくらいの割合なのか、といったことを考慮すれば、私的録音に使わないHDDがほとんどであることが想像できます。
 
 そして、私的録音にHDDを使わない人たちは、音楽との関わりが薄いというのは容易に想像が付くでしょう。少なくとも「録音」を行う人たちにさえ十分な告知が出来ていないにもかかわらず、各企業のIT関係担当者や、ワープロやメールだけにパソコンを使っているライトユーザーや、写真やイラストの処理に大容量のHDDが必要な人たちや、音声入力ソフトで会話をテキストに変換しているような人たちに、制度の周知徹底がはかれるのでしょうか。

しかも、一度書き込んだら書き換えできないDVDやCDRと異なり、
通常のHDDは、上書きが可能ですから、どのように録音などに使用していないかを
証明する方法があるのかどうかという問題があります。

→私的録音補償金返還基準
http://www.sarah.or.jp/info/info11.html
→私的録画補償金返還基準
http://www.sarvh.or.jp/dis/sh-hk.html
私的録画補償金、初の返還額は8円(05/06/22)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0506/22/news088.html
KNOnline.NET/ 【レポート】私的録音補償金返還申請をしてみる!
http://www.knonline.net/d/?date=20050818

 会社でパソコンや外付けHDDを購入したら、何らかの形で録音にこれまでもこれからも録音を行わないことを証明して、それぞれの団体まで行って返還金を受けなければならないのでしょうか。


その他、
1)課金の額をどのように算定すれば妥当と思われるか
2)分配の妥当性と透明性をどのように保証するか
といった問題もあります。

 現在の課金額は文化庁長官の認可を受け、分配の割合は、文化庁長官に届け出ていますが、
その算出方法などは明らかではなく、分配がどのようになされているかの詳細についても、
権利者のプライバシーなどの理由で明らかになっていません。

私的録音補償金管理協会(sarah)のHPのQ&Aには
「Q 7 私たちが支払った補償金はどのように分配されるのですか。」
「補償金の個々の権利者への分配に当たっては、私的使用の実態を完全に把握することが困難であるため、放送やレンタルレコードのサンプリング調査、CDなどの生産実績調査、また、ユーザーの皆さんからのアンケート調査など専門の統計学者の指導による手法によって、できるだけ精度の高い分配資料を作成し、これらの資料に基づいて、適正な権利者への分配を行うこととしています」
http://www.sarah.or.jp/qa/qa07.html
とありますが、適正かどうかの検証は困難です。

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 もし、汎用HDDへの課金に反対するだけでなく、
私的録音録画補償金制度の見直しについても興味を、あるいは危機感を持って頂けたら、
他のエントリも参照ください。

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http://ameblo.jp/chosaku/entry-10004416653.html