花風社の社長浅見淳子さんが、アメリカの精神神経学診断の世界基準であるDSM-5の原書をお読みになった上で、ご自身がお読みになった日本語訳があまりにも原書の内容とかけ離れた嘘八百(注・誤訳ではない)だ。と、Twitterやブログで教えてくれて現在進行形の凸凹育児をしている親としては心強く思うと同時に、精神医療に携わる医師の中に(原書を読むことなしに)、
未だに
「発達障害は脳の障害」
だとか
「治りません」
を口にしている人がいる事に憤りすら感じていました。
わたしがどうしてこんな風に思うのか?
という事は現役の凸凹育児をしている方であれば理解して貰えると思います。
幼児期に診断されて、これから就学やら進学やらの節目を幾つも乗り越えて行かなくてはならない我が子が、
「治らない障害です」
とドクターから宣言された時の親の気持ちがどんなものか?
少なくともわたしは、即 気持ちを切り替えて「頑張ろう!」等とは決して思えませんでした。
DSMを検索していて見つけたのが、
少し抜粋します。
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DSM‒5の病名や用語に対してさまざまな訳語が用いられ混乱が起きることのないように,日本精神神経学会として,「DSM‒5 病名・用語翻訳ガイドライン」(以下,ガイドライン)を作成することが平成24 年度理事会で決定された。
このため日本精神神経学会精神科用語検討委員会は,精神科関連15 学会・委員会の代表者とで,日本精神神経学会精神科病名検討連絡会(以下,連絡会)を組織し,関連学会・委員会に,それぞれが専門とする領域の病名の翻訳案を作成するように依頼した.その際,特定用語をどこまで訳すかの判断は各学会に委ねた。
病名・用語を決める際の連絡会の基本方針を以下に列挙する。
①患者中心の医療が行われる中で,病名・用語はよりわかりやすいもの,患者の理解と納得が得られやすいものであること,
②差別意識や不快感を生まない名称であること,
③国民の病気への認知度を高めやすいものであること,
④直訳が相応しくない場合には意訳を考え,アルファベット病名はなるべく使わないこと,
などである。
連絡会は各専門学会が練り上げた翻訳案を最大限尊重した。
例えば,児童青年期の疾患では,病名に障害とつくことは,児童や親に大きな衝撃をあたえるため,「障害」を「症」に変えることが提案された。
不安症およびその一部の関連疾患についても概ね同じような理由から「症」と訳すことが提案された。
さらに連絡会では,disorder を「障害」とすると,disability の「障害(碍)」と混同され,しかも
“不可逆的な状態にある”との誤解を生じることもある
ので,DSM‒5 の全病名で,「障害」を「症」に変えた方がよいとする意見も少なくなかった。
その一方で,「症」とすることは過剰診断・過剰治療につながる可能性があるなどの反対の意見もあり,
専門学会の要望の強かった児童青年期の疾患と不安症およびその一部の関連疾患に限り変えることにした。
ただし,「症」と変えた場合,およびDSM‒IVなどから引き継がれた疾患概念で旧病名がある程度普及して用いられている場合には,新たに提案する病名の横に旧病名をスラッシュで併記することにした。
前者の例が,例えば「パニック症/パニック障害」であり,後者の例が,たとえば「うつ病(DSM‒5)/大うつ病性障害」である.…以下略
(引用文中の文字の拡大・太字・色の変更は、わたしがしました)
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これは平成24(2012)年度と書かれていますから、実際にDSM-5が発表される前に既にこの様なガイドラインが決まっていた事になります。
わたしが驚いたのは、最初にちゃんと
「病名や用語に対してさまざまな訳語が用いられ混乱が起きるこのないように…」と書かれている事です。
そして基本方針として書かれた ①、②、③、④のどれもが患者の気持ち(感情)に配慮した内容である事も、更には赤文字にした
病名に「障害」とつく事が大きな衝撃をあたえるため「障害」と使わず「症」に変えることが提案された。
とあることから現場の心あるドクターの中には、診断された時の本人や家族の辛い心情を慮って学会でのガイドライン作成の時にこの様な提案がなされたと思うと、これは是非とも精神科・神経科の診療に携わる全ての医師と医療関係者はその心と記憶に銘記して欲しいと思いました。
上に貼り付けた文章の中には詳細な診断名については書かれていませんが、リンク先を読んで頂けるとそれぞれに相応しい診断名が載せられています。
例えば、
Neurodevelopmental Disorders
神経発達症群/神経発達障害群
ガイドラインの説明によると、
/の左側に書かれているのがDSM-5による訳で右側はDSM-Ⅳです。
どちらにの訳にも「Neuro」の訳である「神経」の文字がちゃんとついていて、これはつまり「神経」発達に関わる事であって、これまで単に「発達障害」と訳されていた事も、更には「脳」の障害でもないという事なのです。
そしてDSM-Ⅳの時(1994年)には既に「神経発達障害」という表現が使われていたという事になるのです!
「Neuro」については浅見さんが指摘しておられました。
どうして「神経」の文字が取り去られてしまったのでしょう?
誰がこんな酷い事をしたのでしょう?
どうしてこの言葉に拘るか?と言うと、少なくとも
「脳機能の障害」と言われた(知った)時の衝撃が大きな打撃となってわたしの心も身体も打ちのめしたからです。
そしてこの「神経発達症」に含まれるのが
Autism Spectrum Disorder
自閉スぺクトラム症/自閉症スぺクトラム障害
Attention—Deficit / Hyperactivity Disorder
注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
Specific Learning Disorder
限局性学習症/限局性学習障害
この3つについては、わたしが2014年4月に書いたブログにも当時、講演で聞いた診断名として書いています。
日本精神神経学会の意を汲んでガイドラインに沿っている医師であれば、少なくともDSM-5が発表された2013年以降の新患については全部左側の病名に統一した診断(名)がついている事でしょう。
この様にキチンと考えられ、新しく診察を受ける人に対して配慮された内容のガイドラインがあるにも関わらず、一部の勝手な医師のいい加減で逸脱した嘘の訳出によって、たくさんの人が騙されて苦しい目に遭っている。という事なのです。
そして相変わらずその後もずっと「神経発達症」は使われず、依然として「発達障害」と言い続ける。
これは日本精神神経学会がガイドラインで注意として書いていることと真逆ではないでしょうか!?
更にもう一つ、特記すべき点は太字の赤で強調した
“不可逆的な状態にある”との誤解を生じることもある
ので
「障害」ではなく「症」に変えた方が良いという意見も少なくなかった。
いう表現です。
これは不可逆ではない。という事、つまり「治らない」とは言えない。と感じている現場の医師が少なくないという事なのではないのでしょうか?
少なくともわたし自身、目の前の我が子がどんどん成長しているのを目の当たりにしています。
だから、もう10年以上も前のあの酷く大変だった子育てが嘘のようにすら思えるのです。
同じ様に感じている親はたくさんいるでしょうし、それだけではなく医師もまたそれがわかっているという事なのです!
であれば尚の事、
「治りません!」という表現は間違っている事になります!
そんないい加減で嘘だらけの創作本にDSM-5の解説だなんてつけて出版しても良いのでしょうか?
それも表現の自由ですか?
出版に関してわたしは全くの素人なので全然わかりませんので、浅見さんにお伝えして教えて頂こうと思っています。