ここからの記憶は曖昧で、何を話したのかあまり覚えていません。
言えることは、とにかく自分が冷静だったこと。
涙を流すことも、声を荒げることもなく、本当に冷静に話を聞けた。
旦那の話はこう。
《サキ》は同じ会社の既婚者で、あの派遣の人。
私との夫婦生活に不満を感じていた。
誘っても誘っても断られる日々に自信がなくなり、傷つき、悲しみが募った。
誰でも良いから、この虚しさを埋めてほしかった。
その時、ちょうど同じ部署に《サキ》がいた。
落としてみようとゲーム感覚で、LINEを交換した。
好きなんて気持ちはこれっぽちもない。
体の関係を持って、心にぽっかり穴があいた。
自分は何をしているのだろうかと目が覚めた。
そこで初めて自分がしたことの重大さに気づいた。
私はこの話を黙って聞いていた。
この人は何の話をしているのだろうと。
聞いているのにまだ信じられなかった。
「好きなんて気持ちはない。ただ、寂しかった。本当にごめんなさい。」
許せるはずなんてない。
謝って済む問題じゃない。
「ごめんなさいって言われて、いいよ。って私が言うと思う?
ことの経緯は分かった。私からは今何も話すことはないから今日はもう寝る。」
そう言って旦那の前を通って寝室に行こうとした瞬間。
旦那に腕を掴まれた。
無意識だった。
一番大きな声が出た。
「触らないで!!!!!」
旦那の手を振りほどいた。
気持ち悪いと思った。