少年は、まだ若さが残った顔つきで、あまり手入れをしないのか、顎には申し訳程度に髭が生えていた。
何処か老成・・・いや、冷めた眼光は、歳相応のものではなく、何処と無く濁っている。
少年は夢見る。人がまだ知らぬ、幻想の世界を、壮麗なる、黄金に光り輝く宮殿、太古の失われた文明が、つくりあげた美を追求し、人を幻惑させるような美しさを持つ、遺跡の数々、太鼓の音が鳴り響き、それに合わせ、人に似た、何かが踊り狂い、古の者達が跋扈する世界を。
ボロボロの身体、病に侵され、肺はズタズタだったが、それであっても、その世界を夢見、精神を削り、祈りを捧げ、声に誘われ、幻想へと旅立った。
女性の声だった、ひどく甘く、優しげで、暖かかった。
男であれば、逆らうことは不可能にも思える程、惹きつけるその声、しかし、少年は惑わされなかった。
少年は、知っているのだ。それが、人を惑わし、陥れ、狂わせ、破滅させ、深い闇の淵へと追いやることを悦びとする存在だと。
だが、拒絶はしなかった。あえて、それを受け入れ、少年は、その世界に思いを馳せながら、永い眠りについた。
目を覚ますと、そこは深い闇が支配する。暗黒の森であった。
巨大な木々が、光を遮り、昼間であろうと森は、深い闇が支配している。人を入ることを拒むかのように、絶えず不気味な声が響き渡っていた。
少年は、恐る恐る森の中へと歩みを進める。
この森を抜けると、小さな集落がある。人と何かの混血児達が暮らす、忌まわしい集落が
誰もが忌み嫌う集落を通ろうと思う人間はまずいない。だが、この集落を通過しなければ、少年が目指す土地へと行く事は事実上不可能となる。
しかし、今、一番の問題は視界を遮る草だ。その高さは少年の背丈を優に超えていて、弾力のある茎は、踏み潰そうがすぐに元に戻るし、鋭利なナイフの刃ですら切ることは不可能であった。
少年は、培った経験を頼りに草を掻き分けるように、森の奥へ奥へと歩みを確実に進めた。
歩き疲れた少年は、木の幹を背もたれにして、小休憩をとることにした。
すると、少年の目の前に一風変わった動物が姿を現した。
穴倉から姿を現したそれは、悪臭を撒き散らし、少年を凝視する。顔は醜悪そのもので、目は退化しているのか白く濁っていて、殆ど開けられていなかった。両生類を思わせる様な、ぬるりとした肌をしており、色は病的な程に青白く、こちらを探るように舌をちろりと出し入れを繰り返す。
そして、体格は人に限りなく似ていて、手には土を掘るためか、太く丸い巨大な爪がついていた。
この醜悪な地底人は、敬意を払うように会釈した。少年は驚いたが、すぐに少年も会釈し、礼節を弁えた人物であると示した。
地底人は、流暢な日本語で少年に告げた。
盟友、引き返すのだ。この先の集落は、壊滅状態にある。
少年は、何故、と問う。
地底人は、首を振り、わからない、と答えた。一晩で集落が壊滅したのだ。
地底人は更に続け、自らが見た惨状をありありと語った。
偵察しに行った地底人が見たのは、惨殺された混血児達だった。集落の広場に何百もの死体が積み上げられており、拷問を受けた後が見受けられた。
犯人がかなりの数だったのは、集落が大差荒らされていないことからわかった。数の暴力の前に混血児達は立ち向かうことは疎か、ロクな抵抗すら出来なかったのだ。
だが、そうなると犯人が目撃されていないのがおかしいと、地底人は神妙な面持ちで話した。
集落は森に囲まれていて、地上から来たのなら、集落の周りにキャンプを張っている同胞が気づくはずだし、唯一、森を通らず集落に到達する方法は無くは無いが、それは到底不可能な話で、川を登って行かねばいけなかった。
川には、凶悪な巨大魚が棲んでいて、その凶悪な恐ろしい巨大魚は、常に腹を空かしていて、例え、巨大で堅牢な船だろうと、巨大魚の前では無力であり、一瞬で藻屑に化すだろう。
例え、川を無事に登れたとしても、川からごく稀に襲撃を仕掛けてくる巨大魚を防ぐために、集落の混血児達は巨大な防波堤を築いていて、襲撃を仕掛けるのはまず不可能らしい。
少年は、一連の話を聞いて、是非ともその襲撃の調査をさせてくれと頼み込んだ。混血児達は確かに、醜悪で程度が低い連中だが、例えそうであったとしても、人里離れて暮らす彼らの平穏を乱すのは、許せない話だった。
地底人は、それを快く受け入れた。地底人は、少年を理解力のある盟友であると、認めたのだ。
地底人も混血児と同じような境遇があり、地底人は、波のように押し寄せる人類の進出により森へと逃れた種族の末裔であり、混血児達にはそれなりに思うところがあるらしかった。
地底人は、エンリケと言う名で、この名前は、ある偉大な盟友から与えられた名のだと言った。
少年は、地底人エンリケに、地底人の楽園、地底都へと招かれた。
地底都は鍾乳洞が怪しく光り輝く、不気味な都でありながら、何故か惹かれる魅力があった。
少年は、地底都の中心にある。神殿へと入ることを許され、地底人の長であり、地底人の最高指揮官である。神官との面会すること許可された。
