チョコレートが渡せない
大人になったのに、
かばんに入れたチョコレートを
渡せずに帰ってくることがあるなんて
思ってもみなかった。
バレンタインのチョコレートを
たぶん、ほしがってるだろうと思って
表参道のLa Maison du Chocolatを覗いた。
ショコラが6粒入ったものは、
いつものシックなパッケージと
バレンタイン用の真っ赤なハート型の2種類。
いつものパッケージは、
恋愛の小道具としてはあまりに地味で
だけど真っ赤なハートはあまりに仰々しかった。
まよったけど、年上のくせに子供っぽい人だから、
赤いハートの方にした。
待ち合わせて、ノルウェイの森を観て
吉祥寺のMIYAUCHIでワインを飲んだ。
マカロニグラタンを取り分けてくれながら、
「それで。どうだった?」
すぐに映画のことだとはわからなくて。
気の利いた返事を、とおもったけど。
急に聞くから。
「ハツミの気持ちが、よくわかる」って、
出掛かった言葉を飲み込むので精一杯だった。
鞄の中の赤いハート。
結局、朝になっても渡せなかった。
事務所に行くという彼に
丸井の前で手を振って
学芸大学に向った。
ワインやビールを手にした人たちで
にぎやかなクラスカの屋上。
私は100g200円の
量り売りのチョコレートを買った。
100gになるように、
ナッツやフルーツが入った
大きなチョコレートをハンマーで割り入れた。
なかなか100gに達しなくて、
何度もハンマーを振り下ろした。
紙に包まれたチョコレートは
意外にたくさんで、
とても一人で食べられないと、
すこし途方にくれていたら、
私の手の中の包みから、
マカデミアナッツの入ったそれを
ひとかけ取り上げる、
背の高い人。
見上げた先に、優しい笑顔。
「久しぶりだね」
「偶然ですね」
どうか、すべてのチョコレートが、
おいしく食べてもらえますように。
(フィクション。たぶんね)
iPhoneからの投稿