2019年9月26日(木)

 

 不安気に見つめる私の視線の先、街路灯の明かりがわずかに届く薄暗い路上で男達はうごめいています。

 

 大丈夫でしょうか。このまま物別れに終わり、てめえら~、よくも俺達のシマを荒らしやがったな!とばかりに発砲騒ぎにならないでしょうか。私も車ごと蜂の巣にされる運命なのでしょうか。現代版ボニーとクライドです。

 

 この日、私はメスティアからトルコとの国境に近いバトゥーミへ6時間掛けて向かいます。

 

♡メスティアでは最終日に雨に祟られたがそれ以外は天気に恵まれた。

 

 

 出発準備を整え、朝食を食べに下の食堂に行きますとドイツ人の男女がテーブルに着いていました。

 

 挨拶を交わしてテーブルに着きますと、私が日本人と知った男性が、僕の姉は日本の・・・、ええと、あの、ジャパニーズカルチャー・・・、と何かを思い出そうとしていますので、私が、オー、マンガ!ピカチュー、ドラエモ~ンと言いますとノーノーと否定し、素振りのような仕草をしますので、ケンドー?と聞きますとうれしそうにヤ―ヤ―とうなずきます。

 

 何でも彼の姉は日本に行って合宿もしたそうです。そして、私が漫画と言ったのが気に入らなかったのか、剣道とは歴史の長さが違うと、よりにもよって日本人である私に言って聞かせるのでした。

 

♡宿の朝食。ジョージアは基本的にどの宿でも朝食付き。

 

 食事を食べ終わった後、宿の主人に挨拶してから歩いて10分ほどのマルシュルートカ乗り場に向かいます。キップはすでに前日、買ってあります。(1,140円)

 

♡マルシュルートカ乗り場。

 

 バスのフロントに書いてある行先からバトゥーミ行きを見つけ、車内に乗り込み、席についてやれやれと思っていますと窓の外に宿の主人が現れ、部屋の鍵を返してくれ、と言います。

 

 私は慌ててポケットを探りますと、何と鍵が入っていました。

 

 何と言うザマでしょう。この鍵は差し込み式の立派なものですので無事返すことが出来て胸を撫で下ろします。

 

 こんなトラブルはありましたが、無事、車は出発。一路、バトゥーミ目指します。

 

 出発の時は雨も降って寒かったのですが標高が下がるにつれて気温も上がり、外の景色も山岳風景から平野になり、そして水鳥の群れ遊ぶ広々とした湿地帯も現れます。

 

 やがて、車はビルの建ち並ぶ市街地に入り、賑やかな通りの脇に停まりました。

 

 どうやらここが目的地のバトゥーミのようです。黒海に面した保養地でもありますので、どことなく明るく陽気な雰囲気が漂っていて、これまでのジョージアの街とはまた違った趣です。

 

 ところが、私はここで気が変わっていっきにトルコのトラブゾンまで行く事にしました。幸い、バトゥーミでは宿に予約は入れていません。

 

 そこで車の運転手にバスステーションの場所を聞いてそちらに向かい、元来た道を10分ほども歩くとバスステーションがありました。

 

 乗り場を見つけようとステーション内を探したのですが乗り場が見つからず、売店のおばさんに尋ねますと、息子であろう男の子に言ってくれて、その子が乗り場まで案内してくれました。

 

 そこで、バスの発車時刻を聞くと14:00発は今、発車したばかりなので次は16:00発との事です。

 

 仕方ないのでチャイを飲んだりして時間を潰し、ようやく出発です。

 

♡チャイ。ジョージアやトルコのどこへ行ってもこのガラスのカップ。一杯57円。

 

 

 マルシュルートカは30分も走ったでしょうか、国境に到着です。いよいよこれでジョージアを後にします。

 

 出国手続きも問題なく済み、次にトルコの入国審査に向かっていますと免税店の前で女性に声を掛けられます。同じマルシュルートカに乗ってバトゥーミからここまで来た女性です。

 

 女性は、「いい時に来たね、あんた。済まないけど、これを持って行っておくれでないか?」と言って、箱入りの高級そうな酒が2本入ったビニール袋を渡されます。

 

 そう言えば以前、読んだブログの中に、トルコは酒の値段が高いのでジョージアまで買い出しに来る人がいるが、一人当たりの持ち出し本数制限があるので、同じ車の人間に頼んでトルコに持ち込んでもらう、とありました。

 

 そこで、私も軽い気持ちでつい引き受けてしまいます。(小さな車の車内ですので何となく連帯感みたいなのが生まれて断り難い雰囲気)

 

 次の荷物のレントゲン検査場でパスポートを出すと、女性職員が珍しいのかオー、ジャパニーズと笑いかけて来ます。でも、高級酒を2本、ビニール袋にぶら下げて歩いている私の姿は彼女達からしたら不自然でしょうが特に何も言って来ません。

 

 ここの検査を終えて歩きながら私はふと、ある事に気付きました。

 

 よく、入国審査場に貼ってある、人に頼まれた荷物はありませんか?と言うやつです。

 

 知らない内に合成麻薬MDMAの運び屋にでもされていたら目も当てられません。私は急いでビニール袋の中をガサゴソ調べますが酒以外、特に何も入っている様子はありませんので安堵します。

 

 こうして無事、トルコに入国し、出入国管理の建物の出口で車が来るのを待ちます。

 

 ところがいくら待っても車が来ませんし、私に酒の持ち出しを頼んだ姉御の姿も見当たりません。私の方が先に入国審査を終えたはずですが。

 

 これはどうした事でしょう、置き去りにされたのでしょうか?少し不安にはなりましたが、荷物は全て持っていますし、お酒のお土産付きです。

 

 まあ、その時はその時か、と思い、さらに手持ち無沙汰で立っていますと先の方から見覚えのある男性が二人、こちらへやって来て私を手招きします。

 

 そこで、そちらの方へ行ってみますと、私の乗って来たマルシュルートカが停まっていましたが車はちょうど建物の影で死角になっていたのでした。

 

 私以外の乗客はすでに乗っていたので、私もソーリー、ソーリーと言いながら乗り込み、一路、トラブゾンに向けて出発です。

 

 酒は車に乗るとすぐに受け取りに来ると思ったのですが来ないので、そのまま、座席の下に置いておきます。

 

 しばらく走ると検問所がありました。乗客は荷物を持って降りて行きますので、私も習って降りようとしますと車に乗って来た兵隊が、お前はいいから、と言うふうに手を振ります。幸い、私はテロリストには見えないようです?

 

 検査がすんで車は再び走り出します。

 

 ところがここから長いのです。二週間前にトラブゾンからジョージアのトビリシまで行った時は国境まで3時間くらいだと思ったのですが(ほとんど寝ていたけど)。

 

 今度は幹線道路を外れては、あっちの店の前で停まり、こっちの路地裏で停まるを繰り返します。そして、その度に車から酒を持ち出して、値段の交渉らしきものをしています。私の足元に置いておいた酒もいつの間にか消えていました。

 

 この車はいったい何なのでしょうか?バトゥーミのバスステーションの窓口でチケットをきちんと買ったのですが。

 

 値段交渉が決裂し、相手方に禁酒法時代のアルカポネばりに、トンプソン短機関銃、通称ミートチョッパーで撃ちまくられ、ズタボロにされてはかないません。

 

 結局、ずいぶん時間を掛けて陽のとっぷりと暮れたトラブゾンにようやく到着です。

 

 着いた場所は見覚えのあるオトガル(バスステーション)やメイダン公園ではありません。

 

 少し戸惑っていますと、乗客仲間?が親切に、「公園までそこの坂道を上って行けば良いから」と教えてくれます。また、最初に私に酒を運んでくれるよう頼んだ姉御も、サンキューべリマッチと笑顔で私の労をねぎらいます。私は姉御に手を振り、坂道の方に歩き出しますが、その背中に姉御が、「これであんたも私達の立派な仲間だよ」と声掛けをしてくれたように思えてなりませんでした。(何のこっちゃ)

 

 ♡結局、何だかんだでトラブゾンに着くまでに12時間も車に乗ってしまった。宿を探す気力も無く、メイダン公園すぐ近くのウラルホテル(一泊、1,520円)へ。私にしては立派な宿だった。(朝食はバイキング)