つい先ごろ、名門・立浪部屋が場所を移転し、前の部屋のあった場所からほど近いところにある新しい部屋にて部屋開きが行われた。現在の立浪親方(元小結・旭豊)は先代(元関脇・安念山)の娘婿だったのだが、すったもんだの末に離婚、さらに年寄株の譲渡をめぐる金銭上の揉め事でずいぶんゴタゴタしたようだったが、とにもかくにもカタがついたようで、親方にとっては心機一転の再スタートといったところである── しかし、この新・立浪部屋の部屋開きのニュースでの最大の話題は、部屋のコーチとして招聘された北尾光司氏であろう。角界廃業後、一時期プロレスラーになったもののロクな活躍もないまま消え、その後は冒険家だの総合格闘家だの、わけのわからない肩書きを名乗りながらたまにテレビで姿を見ることがあったが、それも束の間で、その後どこで何をやってるのかわからないまま“あの人は今”状態の人になっていた。 そんな彼であるが、これでも力士時代は22歳の若さで横綱にまで上り詰めた素質豊かで強い力士だったのである。中学卒業と同時に先代時代の立浪部屋に入門、大関までは本名の北尾で取り、横綱になると同時につけてもらった四股名が『双羽黒』。双葉山に羽黒山という、立浪部屋が産んだ大横綱2人の名を一度に受け継ぐくらいだから、その期待のほどが相当なものであったことが窺えるだろう。実は僕は初めてこの四股名を見たときあの『仮面ライダーV3』の変身ポーズを思い出したのだが(笑)。あちらは1号2号両ライダーの変身ポーズをミックスしたもの。V3以降のライダーシリーズの運命を思い返しながら僕は新横綱の前途を悲観したのだった──と、これは僕がその当時よくネタで言ってた話なのだが…、しかしそれはネタで終わらずに真実のことになってしまう。以前から新人類(当時の流行語、もはや死語)で稽古嫌いとの評判で、なおかつ1度の優勝もないまま横綱に上げることに反対意見は多かったのだが、その状態は横綱昇進後も変わることなく、相変わらず稽古には不熱心、土俵上の成績も優勝には到底おぼつかないまま、横綱昇進の翌年に付け人の集団脱走事件を招いたあげく、その年の暮れにちゃんこの味がうんぬんで暴れ、当時の師匠のおかみさんにケガをさせて部屋を飛び出し、そのまま廃業という、何ともダサイ結末で角界を去ったのだった。時に24歳。体格や素質には確かに優れたものがあり、廃業時に彼が殊更に口にしていた“相撲道”とやらに精進していれば大横綱も決して夢ではなかったと思われるだけに、心・技・体の『心』を著しく欠いた彼の相撲人生はまことに残念きわまりいことこの上ない── その元双羽黒が、先代と完全に縁の切れた新生立浪部屋のコーチとして就任する。現在の立浪親方が招聘したのだという。先代師匠へのルサンチマンで意気投合したのだろうか…? 部屋のコーチはあくまでも部屋の師匠によって招かれ、部屋との付き合いをするわけで、本来相撲協会とは一切関係はない。とはいえ双羽黒の一件は大相撲史に残るスキャンダルであり、協会関係者はいい気持ちはしないだろう。特に立浪部屋は最も国技館に近い相撲部屋であり、部屋の表を歩くだけでも協会関係者に何人も出くわすことになるだろうから、立浪部屋の風当たりが心配されるところだが、北尾光司氏自身もその辺のことがわかってるのか、先日力士時代の化粧回しを国技館内の相撲博物館に寄贈して協会から感謝状を受け取ったという。事件から16年、協会関係者たちの怒りも当時に比べてさめてるのだろうか? ともあれ、現在立浪部屋は弟子がわずかに10人前後で関取もゼロ。現師匠の離婚問題その他で部屋の中に不穏な空気が充満してなかなか相撲に集中できる環境になかったことが大きく影響してるのだろう。そうすると指導面では心・技・体のまず『心』から充実させていくのが先決という気がするのだが…、その役をあの双羽黒が担うのかってことになると、個人的には「おいおい、マジかよ?」って正直思ってしまう──彼の横綱昇進時すっかり鳴りをひそめていた仮面ライダーシリーズは現在復活して、子供はもとよりそのおかあさんたちにも高い人気を博している。果たして同じように北尾光司氏もこれを機に再浮上できるだろうか? 今度こそは期待裏切らないように頼んますよ、ホントに。 |