現在もベテラン女優として活躍する当時まだ若かった新人女優さんが、テレビだったか雑誌だったかの何かの企画で相撲部屋めぐりをした際、ある部屋の力士から「相撲部屋を訪問する時は玄関でまず最初に必ず『首投げ、ごっちゃんです!』と挨拶しなくちゃいけないんだよ」と冗談で教えられて、その次に訪れた別の部屋の玄関のドアを開けるなり大声でそのように挨拶をして、その部屋の力士連中を大慌てさせてしまったというエピソードを、以前相撲雑誌か何かで読んだことがある。そりゃ力士たちも相当びっくりしたことだろうなぁ、若い女の子がいきなり相撲部屋の玄関を開けるなり「首投げ、ごっちゃんです!」だから。この女優さんも正しい意味を知らされると真赤になって終始うつむいてたとのことだけど──相撲の世界には一般とは違ういろいろな隠語があって、一般の人にはイマイチ意味がわからないものも少なくない。教えられた通りに不用意に使ってしまうと、知らずに大恥をかくこともあるのだ…、上述の「首投げ、ごっちゃんです」の意味は、興味があれば何かの相撲書ででも各自お調べください。相撲技の『首投げ』が決まった時の形状がそれに似てるところから生まれた隠語だそうです。相手が『金星』なら申し分ないですね(^^;)。 しかしながら、相撲の世界から発生してその由来がイマイチ不明確なまま一般に用いられてる用語というのも実は少なくないのである。『八百長』の語源はこちらにも書いた通り(なので繰り返すが『八百長』という言葉が存在してること自体が大相撲に八百長があることの何よりの証拠なのである)であるが、まさかこの用語が相撲の世界から出てきたなんてちょっと思いつかないようなのもけっこうあったりするのだ── 水死体のことを表す『ドザエモン』という言葉、これは昔、成瀬川土左衛門という力士の顔色や表情が水死人のそれにそっくりだったことからいつしか水死者を「土左衛門」と呼ぶようになりそれが定着したものである。よりによって水死人という意味で自分の名前が後世に残った成瀬川もさぞかし気分よくないだろうなぁ── ヤクザや不良がよく暴行やイジメの対象に対して「かわいがってやっからな」と脅し文句を使うが、これも相撲の世界で特定の力士を稽古で集中的にシゴくことを『かわいがる』と称したものが一般化したもの。稽古場でのシゴキはある意味弟子を強くするための鍛錬であるから、これを「かわいがる」と呼ぶのは間違いとも言えないかも知れないが、ヤクザ用語として一般化した現在の「かわいがる」は果たして適切かどうか…。 『花道』という言葉も平気な顔でいろんな場所で使われているけれど、これだって支度部屋と土俵を結ぶ通路のことを指す言葉だもんな。なので「男の花道を飾る」みたいな使われ方で用いるのはいいとしても、かつての長寿番組のタイトル『演歌の花道』などは、女性演歌歌手の出演も多かったこの番組タイトルとしては本来適切とは言えないかも知れない。ご存知の通り角界は頑なな女人禁制社会だから、女性に『花道』は本来ないのである── ──とまあ、ここまで挙げたものはともかく、以前一緒に相撲中継を観ていた当時の友人が決まり手の『肩透かし』を「え!? 肩透かしなんて名前の技あるの? 全然知らなかった」などと真顔で驚いてたことがあったので、多少なりとも相撲に詳しい僕の感覚と一般の感覚ではやはり違ってるかも知れないので、他にも『仕切り直し』『物言いをつける』『序の口』『猫だまし』『勇み足』『水入り』などを挙げておきましょうか…、僕の感覚ではこれらは「いくら何でもそれくらいは知ってんだろうよ…」なのですけどね^^;)──でも、今みたいな調子でファンの相撲離れがこれからもどんどん進んで行くと、これらの言葉もだんだん一般の人の中では相撲と結びつかなくなっていきそうな気もちょっとしてしまう。 |