途中 斥候に出ていたテマンから

先にある中和(チュンファ)の街道沿いの集落が

異様な雰囲気だと報告があった



 
 

 

警戒しながら村を通ったが

歩く人影は全くない

 

 

一軒だけ 店先の蒸籠から

もうもうと湯気が立ち昇る饅頭屋があり

まだ少女ぐらいの娘が

ひどく怯えた様子で立っている

 

 

「どうしたんだ?

 誰も居ないけど

 この村で何かあったのか?」

 

 

テマンが聞いても娘は頷くのが精一杯で

よく見ると背後に怪しい男が数人おり

一人は娘の背に刃物を当てていた

 

 

向かいの建物には弓を構えた男たちもいる



 


「この娘を助けたいなら

 そこの女に一緒に来て貰おう」

 

 

元訛りのある話し方で男が言った途端

迂達赤達は編隊を組みウンスを囲んだ

 

 

「そこの女って あたしのことぉ?」

 

 

ペクが尋ね返す間に

ヨンとサンユンが進み出る

 

 

「遊んでる暇はないんだ

 そこの赤毛の女を渡さないなら

 この娘には死んでもらう」

 

 

男が怒鳴ると娘は嗚咽を漏らした

 

 

「お前たち

 ここから逃げられると思ってるのか

 その娘を放せば命は助けてやる」

 

 

ヨンが告げると男は鼻で笑った

 

 

「俺たちがその女を連れて行かないと

 村人が皆殺しになるが

 それでもいいんだな」

 

 

ウンスが馬から降りて進み出た

 

 

「私が行けばいいのね

 わかったわ

 とりあえずその娘は放してあげて」

 

 

「お前が先にここまで来るんだ

 そうすれば娘は助けてやる」

 

 

「ほら 私と交換よ

 その娘を放してくれないと私も行けないわ」

 

 

「イムジャ 後ろに下がってください」

 

 

「ダメよ

 私が行かないと村人が殺されてしまう

 みんな 下がってちょうだい」

 

 

「イムジャ 出てきてはいけません」

 

 

男が刃物を娘の首筋に当てると

血が滲み出て娘が悲鳴をあげた

 

 

「ヨンア 貴方を信じてるから」



 


ウンスはヨンを見つめて頷くと

周りにも声をかけた

 

 

「お願いだから みんなは下がってちょうだい

 私ならすぐに殺されることはないわ

 大丈夫だから」

 

 

そして

ペクとジウォンにも微笑んでみせると

ゆっくりと前に進み

店の中に入る直前で立ち止まって叫んだ

 

 

「さあ その娘を放しなさい!」

 

 

「下手な真似すると 娘も女も殺すぞ」

 

 

賊の仲間が弓でウンスを狙う中

男は娘の首筋に刃物を当てたまま近づき

娘を突き放してウンスの腕を掴むと

今度はウンスの首筋に刃物を当てながら

店の奥に後ずさって行く

 

 

その間に

解放された娘をジウォンとテマンが保護し

ジウォンが素早く尋ねた

 

 

「店の中に他に誰かいる?」

 

 

「ここには誰もいない

 みんな村長の家にいる」

 

 

娘は震えながらも答え

それを聞いたヨンと迂達赤が店先まで進む

 

 

裏口から逃げるため

賊の一人がウンスを抱え上げようとして

男が一瞬刃物を外した時

ヨンは叫んだ

 

 

「チグン!!」

 

 

瞬間

ウンスは男に思い切り肘鉄を喰らわせ

蹲み込んで頭を抱えた

 

ビュッ ヒュンヒュン ヒュン

 

 

どこからか飛苦無や矢が放たれる音がして

賊の呻き声があがるや

ばたばたと迂達赤らが雪崩込み

頭上で剣を交える音がした

 

 

ウンスはテマンとペクに手を引かれ

店から連れ出されたが

後ろは振り返らなかった

 

 

保護されたウンスは

真っ直ぐに娘のところへ行き強く抱きしめた

 

 

「向こうを見ないで 私の目を見て

 

 もう大丈夫よ 貴女は助かったの

 怖かったわね よく頑張ったわ」

 

 

娘は堰を切ったように声をあげて泣き出し

ウンスはしばらく娘に寄り添い

背を撫でていた

 

 

その様子を見ていたジウォンは

何故か自分も抱きしめて欲しい衝動にかられたが

そう思ったことがこそばゆく感じて

自分には似合わないと目を逸らした



 


屋根にいた賊は

シウルとマンソクが矢で射とめ

店にいた男は

ヨンと迂達赤によって取り押さえられた

 

 

拘束される前に主犯らしき男ら数人は服毒したが

矢傷を負った男は捕縛され

手巾を口に突っ込まれ服毒を妨げられていた

見るとまだあどけない顔をした少年だった

 

 

ウンスが娘の首筋を治療して

娘が落ち着いたところで事情を聴くと

今朝 集落に役人が来て

盗賊が村に迫っているから

村長の屋敷に逃げろと触れ回ったというのだ

 

 

慌てて村から逃げ出す者や隠れる者もいたが

ほとんどの者は半信半疑で家にいたらしい

 

 

しばらくして

本当に盗賊が現れ 暴れ出したので

みな慌てて村長の屋敷に逃げ込んだところ

村長と娘が数人 人質に取られ

あとは敷地内に監禁されているという

 

 

ヨンはテマンを呼び

捕らえられた少年から話を聞こうとしたが

暴れるだけで話そうとしない

 

 

「話す気が無いようね

 じゃあ先に治療するわ

 

 ヨンア

 さっきペクオンニに貰った膏薬をちょうだい」

 

 

ヨンは溜息を吐くと

仕方なく薬をウンスに渡した

 

 

「テマナ 通訳してくれる?」

 

 

ウンスは自分の荷から手拭いと手巾を出し

手巾を水で濡らした

 

 

「腕の傷を治療するわね」

 

 

テマンが通訳すると少年は驚いたようで

何をされるのかと不安気に暴れた

 

 

「仕方ないわね

 ヨンア 腕を抑えてくれる」

 

 

テマンが少年の体を後ろから抱き込み

ヨンが矢傷のある腕を出して抑えた

 

 

「動くと危ないわ

 少し滲みるけど我慢してね」

 

 

ウンスは手早く傷口を拭き取り

膏薬を塗って手拭いを巻いた

 

 

「さあ 終わったわ

 

 暫く濡らしちゃ駄目よ

 二、三日は痛むと思うけど

 深い傷じゃないから大丈夫」

 

 

そう言って少年の頭を撫でた

少年はじっとウンスの顔を見ていたが

小さく呟いた

 

 

「ありがとうって」

 

 

テマンが訳す

ウンスがにっこり笑うと

少年も安心したように笑った

 

 

それから少年はぽつりぽつりと話し始めた

雇い主は花嫁を迎えにきていると

 

 

「雇い主とは誰か」

 

 

王譓」

 

 

やはり現れた毒鼠に

ヨンや古参の迂達赤は

憤怒の表情を浮かべるのだった

 

 

 

 
 

***