ヨンからの熱烈な口づけに
うっとり溶ろけて身を預けるウンスを
がっちり抱きしめ
そのまま寝台に引き込もうとしたヨンだが
そんな思惑に気付かぬウンスは
口づけの合間にヨンに訊いた
 
 
「ねえヨンア
 夕餉は食べたの?」
 
 
「いいえ    まだですが…
 夕餉よりイムジャが欲しい」
 
 
「もうバカね
 マンボ姐さんがたくさん届けてくれてるのよ」
 
 
ウンスの気が夕餉に向いてしまい
内心ヨンは舌打ちしながら尋ねた
 
 
「イムジャは腹が減っておるのですか?」
 
 
「私はもう
 ジウォンとシンと食べたのよ」
 
 
なんだと!
 
 
「ヒョンが来ていたのですか?」
 
 
自分の居ないところで
ウンスとシンが会っていたかと思うと
面白くないヨン
 
 
「ええ
 夕餉を届けてくれたのよ
 ヨンアの分もって
 まだなら 今 支度するわね
 ワインも一緒に飲みましょ!」
 
 
久しぶりにウンスが見せる
楽しそうな笑顔には安堵したヨンだが
ウンスが腕からすり抜けてしまい
寝台に連れ込むのは仕方なく諦め
小さくため息を吐いた
 
 
「ヒョンとも わいんを飲んだのですか?」
 
 
拗ねたようなヨンの声音が
ウンスには可愛くも可笑しくもあり
 
 
「ワインはヨンと飲むために
 王妃様からいただいたんだもの
 他の人とは飲まないわ」
 
 
ウンスの一言に
機嫌を直したヨンは
久々に過ごす
二人きりの夜への期待に
心を躍らせた
 
 
 
***
 
 
 
椅子に並んで腰掛け
ワインのせいか
頬を染めたウンスは
片手で頬杖をついて
少し見上げるようにヨンを見つめていた
 
 
イムジャはそれほど
飲んでおらぬのに顔を赤くして
もう酔いがまわっておるのか?
 
そう言えば坤成殿でも
あまり飲まずに酔っていたと
叔母上が言うておったな
イムジャは酒が弱くなったのか
 
はぁ 唇が光っておるではないか
こんな艶っぽいイムジャを
他の者に見られては危険だ
 
 
片手はウンスの手を握り
もう片手は箸を動かし
時々 ウンスの口にも
つまみを放り込みながらヨンは言った
 
 
「イムジャ
 俺のおらぬところで
 酒を飲んではなりません」
 
 
「どうして?」
 
 
「イムジャは無防備過ぎる
 よからぬ思いを抱く輩が現れると危険ゆえ
 俺といる時だけにしてください」
 
 
「この前は王妃様と一緒に飲んだわよ」
 
 
「あの時は叔母上が傍にいて
 坤成殿に男は入れぬゆえ
 許したのです」
 
 
「ふ〜ん
 じゃあ また王妃様に誘われたらどうするの?」
 
 
「俺が承知していれば構いません」
 
 
「ふ〜ん
 でも叔母様がいる時だったら
 飲んでもいいでしょ?」
 
 
「駄目です」
 
 
「ええ?! なんでよ〜」
 
 
「叔母上はどうやらイムジャに甘いようだ」
 
 
「え〜
 じゃあ手裏房宿で
 マンボ姐さんがいたらいいでしょ?」
 
 
「駄目です
 マンボ兄妹はイムジャに甘過ぎる
 好きなだけ飲ませてしまうので
 絶対に駄目です」
 
 
「そんな〜
 女子会とか
 私にも付き合いってもんがあるんだから!」
 
 
赤い頬をして口を尖らせるウンス
 
 
なんと可愛いらしい顔をして拗ねるのか
この顔を俺のおらぬところで
他の男に見せるなど絶対に駄目だ
 
 
「わかりました
 では 男がおらぬ女人だけの席に限って
 俺が承知していればいいことにいたしましょう」
 

イムジャと女人だけで酒を飲むなど
王妃様かせいぜいジウォンとマンボぐらいだろう


「ほんと?! やったーっ!」
 
 
「俺が承知していれば…ですよ
 
 俺も譲歩いたしました
 なのでイムジャも
 俺のおらぬ時 男がいる席では
 絶対に飲まないと約束してください」
 
 
「でも 王様に言われたらどうする?」
 
 
はっ イムジャは酔っておるな
 
 
ヨンは吹き出すのを我慢して
真顔をつくり答える
 
 
「王様はそのようなことおっしゃいません」
 
 
「例えばよ 例えば
 王様が飲めって命じたら
 飲んでもいいでしょ?」
 
 
そこまでして酒を飲みたいのか
 
 
「駄目です
 王様も男です
 例外はありません」
 
 
「ええ〜っ
 でも王命に背くと罰せられるわよ
 私が島流しになってもいいの〜?」
 
 
ヨンは笑いたいのを堪えて言った
 
 
「俺は王様よりもイムジャが一番だと
 王様にも宣言して了承いただいております
 
 しかし
 イムジャは俺が一番ではないのですね?」
 
 
ヨンが俯き溜め息を吐くと
ウンスが慌てて
握りこぶしを作って宣言した
 
 
「貴方が一番に決まってるじゃない
 だから王様に命じられても絶対に断るわ!」
 
 
ヨンは笑いを我慢できず
手で顔を覆って隠していたが
 
 
「でも シンならいいでしょ?
 オッパがいれば安心だもの
 百年前もオッパがちゃんと面倒見て…」
 
 
「絶対に駄目です
 だいたい イムジャはそんなに
 俺以外の男と酒が飲みたいのですか?」
 
 
ヒョンと呑むなど
王様よりも駄目に決まっておる


ウンスの発言に被せ気味に反対し
また拗ねたような声音を出した

 
「そういうわけじゃないけど…
 あれ〜?
 なんでこんな話になったんだっけ?」
 
 
「イムジャ
 よく考えてください
 俺がイムジャのおらぬ席で
 他の女人と二人で酒を飲んでも
 イムジャは平気ですか?」
 
 
「…それは嫌」
 
 
「ならば
 約束してください
 相手が王様でも手裏房でも迂達赤でも同じです
 
 悩む必要がありますか?
 いつも俺の傍にいればよいのです
 そうすれば いつでも
 酒が飲めるではないですか」
 
 
「あっ そっか〜!」
 
 
やはり
イムジャはだいぶ酔いがまわっておるな
 
 
「それに
 外で飲まずとも
 酒なら俺と二人で
 こうして飲めるではありませんか」


  

 
「それもそうね わかったわ」
 
 
よし!


「俺のいない席では酒は飲まぬこと
 わかりましたね
 約束を破ったら仕置きをしますよ」
 
 
「大丈夫!
 ユ・ウンス ちゃんと約束します!」


そう言ってウンスは
ヨンの小指に自分の小指を絡め
四年前 ヨンに教えた
一連の約束の儀式をして見せた

 
「はい 指きり拳万 判子 コピーっと
 約束できました テジャン!」
 
 
酔いのせいか
頬を染め 潤んだ瞳を三日月にして
笑顔で敬礼したウンス


その愛らしさにヨンは堪らず
ウンスを抱きしめ耳元で囁いた
 
 
「イムジャ もう休みますか?」
 
 
「う〜ん もう少しこうして話していたいな」
 
 
そう言いながらも
とろんと眠そうな目をして
ウンスは欠伸をした
 
 
「イムジャ
 では 寝台に移って
 ゆっくり話しましょう
 眠くなればそのまま休めばよいのです」
 
 
ヨンは今度はウンスの返事を待たず
ウンスを抱き上げると
奥の寝台まで運び
ウンスの靴を脱がせ
腰帯を解いて上衣も脱がせると
有無を言わせず横たえた
 
 
「待って待って ちょっとヨンア!
 火鉢の薬缶に水を足したいの
 ちゃんと加湿しなくちゃ
 空気の乾燥はお肌の大敵なのよ」


「俺がしますゆえ
 イムジャはそのままで」


ウンスが起き上がろうとするのを制し
ヨンはそそくさと
火鉢の炭を見て
水甕から薬缶に水を足し
灯りを寝台の近くまで持ってくると
鬼剣を脇に置き
自分も素早く衣を脱いで
下着姿で寝台に潜り込んだ
 
 
ウンスを腕枕し抱きしめると
心地いい場所を探してウンスも頬を寄せてくる
 
 
はあ〜
ようやっと
ようやっとイムジャが
俺の腕の中に戻ってきた
 
 
ヨンは満足の吐息を吐いて
ウンスの髪に口づけた


 「やっぱり 貴方がいると
 体温が高いからあったかいわね

 貴方がいない日は…
 オンドルを焚いてもらおうかな…」


「イムジャはいつも俺が温めます」

 
「ふふふ ありがとう

 よく考えると私たち
 開京に着いてから
 ゆっくり二人きりになるのは初めてね
 こうしてると安心する」


このままヨンと
ずっと二人きりでいられたらいいのに…
なんて 私のわがままね

 
ウンスがぎゅっとヨンにしがみ付くと
ヨンもウンスの髪をなでた
 
 
「そうですね
 俺もイムジャが傍におらぬと落ち着きません
 帰還後の所用で忙殺されておりましたが
 これからはもっと
 このような時間を持てるでしょう」
 
 
「ほんと?
 でも ヨンア…
 屋敷に戻らず 私と過ごしててもいいの?
 無理してない?」
 
 
「無理などしておりませぬ
 イムジャのいるところが
 俺の帰るところです」
 
 
「嬉しい!」
 

ウンスは顔をあげて
ヨンの顎に口づけた


「イムジャ
 どうせならこちらに」


ヨンが唇を指さすと
ウンスはハニカミながらも唇を重ね
チュッとリップ音をたてた


酔っている時のイムジャは
なんと素直なのだ
 

ご機嫌のウンスにヨンは
ずっと気掛かりだったことを尋ねてみた


「イムジャ
 旅の途中から
 どこか様子がおかしいように思うたのですが
 本当に体の具合は問題ないのですか?
 まだ食欲も戻っておらぬようですが」


「えっ? ええ
 旅の疲れが出ていただけで
 本当にどこも悪くないわ
 ケンチャナ」


答えながらもウンスは目を泳がせた


「しかし
 最近 思い詰めたような顔をしておるのは
 俺の気のせいではないでしょう
 何か思い悩んでおるのですか?
 イムジャ
 何かあるなら俺に言うてくれ」
 

そうよね
これだけ気配に敏感なヨンだもの
きっと私 バレバレなんだわ
どうせこの先も
奥方への嫉妬をうまく隠しきれそうにない
もう言っちゃう?
ヨンに呆れられちゃうかも知れないけど…


「あのね…
 開京に着いたら…    ヨンがね…
 もう私だけのヨンじゃなくなっちゃうでしょ
 そう思ったら悲しくて…」
 
 
「どういう意味です?」
 
 
「だから…
 ヨンアが…
 他の女人のところへ行くと思うと…
 それを考えただけで…
    私…」
 
 
そう言いながらもウンスの瞳は潤みだした
ヨンは予想外のウンスの気持ちを聞いて
驚きつつも嬉しくて
堪らずウンスの額に口づけた
 
 
「馬鹿な
 そんな心配をしておったのですか?」
 
 
他の女人とは?
イムジャは一体誰に悋気しているのだ?
高麗の男は何人も女人を侍らせるとでも
思うておるのか?
そもそも
そんな心配など要らぬものを
 
 
「だって
 あなたを独り占めしたいなんて言ったら
 困るでしょ?」
 
 
ずっと心配していたウンスの憂いの原因が判り
ヨンは心から安堵すると同時に
喜びが溢れてきた
 
 
イムジャが開京の女たちに悋気していたとは!!
 
よし!
こんなに愛らしいイムジャが見れるなら
これから二人きりの時は
できるだけ晩酌しよう
 
 
ヨンは にやにやが止まらず
長い脚までウンスに絡めて
抱え込むように強く抱きしめた
 
 
「困るわけがありません
 イムジャは俺を独り占めしてよいのです」
 
 
「ほんと!?
 じゃあ わがまま言ってもいいの?」
 
 
「俺に関することなら
 イムジャはわがままを言っても構いません」
 
 
「あのね…
 他の女人のところには泊まらないでって
 お願いしてもいい?」
 

奥方のところに
貴方を帰したくない
でも そんなの無理よね


はぁ〜 イムジャ
なんという可愛らしい願いだ
イムジャの願いは間違いなく叶います
 
 
「イムジャ
 他の女人のところになど
 絶対に泊まりません」
 
 
「ほんと!? 約束よ!」
 
 
四年前にウンスが教えた時は
呆れていたにも関わらず
ヨンは自分からウンスの小指に指を絡めて
指きり拳万 判子 こぴい として見せた


不安そうに揺れていたウンスの瞳が
嬉しそうに輝きだし
それを見たヨンも
蕩けそうに甘い笑顔を浮かべて言った


「イムジャ
 これで約束できました
 だから 安心してください
 俺にはイムジャだけだ」



***