テマンが戻り
ヨンに外套を渡しながら
何やら言いたそうにしたが
ヨンは目で制した
 
 
「あ
 テマン君 
 何か飲む?
 喉渇いてるでしょ?
 
 コッソンピョンも
 テマン君の分
 とってあるのよ」 
 

 

 
「オ、オイラ
 兵営で飲んできたから
 大丈夫です」
 
 
「そお?
 遠慮しなくていいのよ
 
 この辺りで
 のんびり過ごすのも
 最後になるんだし
 一家団欒しましょうよ」
 
 
「え、一家? 
 オ、オイラもですか?」
 
 
「当たり前でしょ
 ヨンの弟は
 私の弟なんだから
 テマン君は家族の一員よ」
 
 
 

 
「か、家族…」 
 
 
テマンは
たちまち胸がいっぱいになった
 
 
貴女は
そうやって 
何気ない一言で
みなの心を掴んでしまう
 
 
それに
 迂達赤も大きな家族じゃない
 ね ヨンア
 貴方は一家の大黒柱!」
 
 
「はあ まあ…」
 
 
「そして
 チュンソクさんが奥さんで」
 
 
「は?
 なぜチュンソクが…
 なら貴女は?」
 
 
「私はみんなのマスコットガール!」
 
 
「ますこっとがーる …とは何です?」
 
 
「看板娘よ!」
 
 
「何故
 イムジャが迂達赤の看板娘なのです?」
 
 
「だって典医寺だと 
 私より若い娘が多いのに
 看板娘なんていうのは図々しいでしょ」
 
 
「しかし 何故 迂達赤で?」
 
 
「だって私
 迂達赤二等兵 ユ・ウンスだもの
 迂達赤で私より若い娘がいるかしら?」
 
 
「い、いません!」
 
 
「ほらね! 
 ヨン    私が看板娘じゃ嫌なの?」
 
 
貴女は俺の女人です
 たとえ迂達赤であろうと
 貴女を見世物にするつもりも
 分け合うつもりもありません」
 
 
きっぱり言い切ったヨン
 
 
「もうやだ ヨンアったら」
 
 
ヨンの腕をバシバシ叩いて
照れをごまかしながら
 
 
「今日は秋夕だから 
 テマン君も一緒に
 夕餉 食べましょうね」
 
 
「え それは…    」
 
 
テマンは
ちらっとヨンを見た
 
 
「テマナ 食っていけ」
 
 
「ほら
 兄さんの許可も出たし
 決まりね!」
 
 
「オ、オイラ…
 秋夕なんて初めてで…
 ありがとうございます」
 
 
「大丈夫
 私も高麗では初めてよ
 
 さて そろそろ
 薬房へ行きましょうか!」
 
 
ヨンがウンスに外套を羽織らせる
 
 
「え 衣が隠れちゃうわ
 せっかくヨンが揃えてくれたのに」
 
 
「日が傾くと冷えてきます
 イムジャは手足が
 冷えやすいではないですか
 
 それに今 風邪を召されては 
 開京までの行程が 辛くなります」
 
 
「それは 
 そうだけど… まあ
 リスクは冒さないほうがいいわね
 わかったわ」
 
 
テマンが
支払いを済ませているうちに
ヨンはウンスに
外套を羽織らせてやり
フードもしっかり被せて
やっと安心できた
 
 
そしてウンスの手を引き
薬房へと向かった
 
 
そんな三人を 
じっと探るように見る影があった
 
 
 
***
 
 
 
石鹸と…    
化粧水も作る時間あるかな?
でも 荷物も増えるし
今は石鹸だけにしよう
 
 
私 王妃様 叔母様 トギ…
一 二 三 四…    五 六…    
 
 
ウンスは指を折りながら 
薬房前で ぶつぶつ呟いた
 
 
薬房で材料を買い込み
運良く 紅餅も手に入り
ウンスはご機嫌だった
 
 
「ヨンア
 ここは国境だから 
 異国の物も多いのかしら?」
 
 
「はい
 碧瀾渡や開京 西京には及びませんが
 元や大食国の物もあるかと」
 
 
化粧水を入れる
綺麗な硝子瓶が見つかれば嬉しいな
 
 
そういう
ちょっとしたことで
女子ってテンションあがるのよね〜
 
 
急にウンスの目が輝きだしたのを見て
ヨンの口元も緩んだ
 
 
そして硝子瓶を探して
ある店を覗くと
蓋に モザイク柄や 花柄の描かれた
小さな丸い陶器があり
ウンスは目を奪われた
 
 
 
 
 
「わあ 素敵!
 どれも可愛いわ!」
 
 
「これは大食国のもので 
 どれも手描きの一点物です
 
 今日届きましたが
 ここにある分だけですよ」
 
 
「ウンスや 気に入りましたか?」
 
 
ウンスは大きく頷いた
店主に合図して
そこにあった陶器を
ヨンは全て包ませた
 
 
「ありがとうヨンア!
 でも 五つもいいの?」
 
 
「はい すべて柄違い故
 選ぶのも難しいかと…」
 
 
「そりゃ〜
 こんな天女みたいな別嬪さんなら
 全部買ってやりたくもなるってもんですね
 
 他には何かお探しですか?」
 
 
一瞬
警戒したヨンだったが
店主に深い意味はない様子
 
 
「何ということは
 ないんだけど…
 
 何か香料とか…  
 香水はありますか?」
 
 
店主が奥から
一本の小瓶を出してきた
 
 
木の栓を軽く捻って
開けた途端
しっとりと芳醇で
甘い香りが広がった
 
 
「これは 香油ね!
 しかも ローズだわ!!」
 
 
ウンスはもう大興奮だった
もちろん 
ヨンは 
それも買い上げ
 
 
ウンスは感激し
思わず背伸びして 
ヨンの頬にちゅっとポッポした
 
 
 
***