『アトマイザーの告白/art of erfume

9.コンピュータドライビング

その日は、久しぶりの樫尾ユタカ講師の「天文観察学」の授業だった。
彼女から「二人の補習」の話を聞いてから、ノチオはどうしてもユタカの存在が気になっていた。
そんな「負」の気持ちを吹き飛ばす為、授業前にノチオは彼女と会話を楽しもうとしていた。
「あ~ちゃん、昨日の日曜日、いい天気だったよね。」
「うん。お出かけしてても、外は暑かったもん。」
「どこか行ってたの?」
「うん。池袋のね、プラネタリウムと水族館。」
ノチオの不安心が少し動いた。
プラネタリウムと水族館なんて女の子が1人で行く所じゃないし・・・
誰と行ったんだろう?
確か、例の補習は“毎週土曜日の3回”って言ってたけど・・・
まさか、樫尾先生と・・・?
ノチオが考えていると彼女が話を続けた。
「外は暑かったんだけど、プラネタリウムと水族館は涼しかったの。夏は涼しいところが嬉しいよね~。」
ノチオは彼女に確かめる勇気を持てなかった。
ただでさえ情緒不安定気味な最近のノチオは、これ以上彼女の口からショックな事は聞きたくなかった。
そのうちに樫尾ユタカが授業の為に教室に入ってきた。
一瞬、ユタカと彼女が目を合わせ、小さく挨拶したように見えた。
ノチオの不安心はさらに動いた。

授業が終わり、ノチオは彼女を教室で待たせて、彼女の目が届かない教室の外でユタカを呼び止めた。
「樫尾先生。」
「ああ、確か大木君?」
「はい。大木です。え~っと、つかぬ事をおうかがいしますけど・・・」
ユタカは、ノチオの観察を開始すると共に、「彼女」の事を聞かれると判断し、頭の中で対応策をシミュレートした。

彼女との結果が出るまでは、変に騒がれたくなかった。
「なんだい?」
「樫尾先生、最近・・・プラネタリウムとか、行きました?」
「え?天体観測の練習にかい?」
ユタカは穏やかに笑いながら言った。
「いえ・・・。あのぉ、池袋の水族館とか行ってません?」
ノチオは、ユタカからの解答が良いものでありますように祈っていた。
ノチオの声は明るかったが、目は真剣だった。
ユタカは、その純粋さに若干の後ろめたさを覚えながら、笑顔で答えた。
「何をわけのわからない事を言ってるんだよ。
ボク、人が多いところは苦手だからね。 最近、日曜日は街中には出てないよ。」
ユタカの返事に、ノチオはホッとした表情になった。
「いや~。そうですかぁ!すいません。じゃまた!」
ノチオは思わずガッツポーズをしていた。
(良かったぁ。あ~ちゃんと池袋へ行ったのって、樫尾先生じゃなかったんだ!)
心の中でそう叫びながら、ノチオは教室に走って戻って行った。

ユタカはノチオの後ろ姿を見送りながら「単純で純粋で良いヤツ」と分析評価を与えた。
その単純さのおかげで、うまく誤魔化せたと安心したが、
ふと、自分の発言のミスに気が付いた。
ノチオが気付かないような小さなミスだったのは幸いだった。
彼女に関する事では、どうしてもユタカの計算は狂ってしまう。
ユタカの中では「恋愛かどうか」の最終判定はまだ出ていなかった。
彼女と一緒の時の居心地の良い楽しさや、彼女を大事に思い守りたいと思う気持ちは、
生徒や友人に対するものとは大きく違っていた。
しかし、「恋愛」とは少し違う気もしていた。
それが何かは答えが出なかった。
だが、これ以上今日のような変なミスをして彼女との仲が離れてしまう事は避けたい。
だから、ユタカは今日中に彼女に告白する事を決めたのだった。

ノチオは教室の彼女の元まで戻った。
「ごめん、あ~ちゃん。お待たせ。」
「何?ノチオくん。なんか嬉しそう。」
良いテンションに乗って、ノチオはアドレスゲットを試みた。
「あのさ、あ~ちゃん、アドレス聞いてもいいかな?」
「あれ?まだ交換してなかったっけ?この間したと思ってた。あ。でも私、赤外線とか、わかんない・・・」
ノチオは、さらに心の中でガッツポーズを繰り返していた。
「あ、オレがするよ。ケータイ貸して。」
彼女から携帯電話を受け取ると、ノチオは意気揚々と操作を始めた。
「え~っと。「大木」だから、一度「か」行に入って一個戻る・・・と・・・え?」
ノチオは、彼女の携帯電話の「か」行のアドレス帳に“樫尾ユタカ”の名前を見つけてしまった。
(え?なんで、樫尾先生のが・・・?)
ノチオのテンションは急降下した。
疑問に思いながらも、ノチオは交換の作業を終わらせ携帯電話を返した。
疑問は新しい不安を呼び、さっき解消されたはずの心配を揺り起こした。
「あのさ、あ~ちゃん、さっき言ってた池袋ってさ、誰と行ったの?家族?」
「ううん。樫尾先生だよ。」
「え?(え~~!?)」
彼女の返答にノチオは倒れそうになった。
「樫尾先生ね、私「みずがめ座」なのに「うお座」だとか、マンボウ食べるとか、わけわかんないの。」
彼女はニコニコ楽しそうに話した。
「え?だって・・・樫尾先生・・・」
(なんで?なんで樫尾先生ウソついたんだ?

あ。そういえば、さっき樫尾先生「日曜日は」って言ってたけど、なんで日曜日って思ったんだろう?オレそ

んな事聞いてないのに・・・。

裏を返せば・・・日曜日に行ったって事?・・・言えない相手と・・・?)


ユタカの小さいミスにノチオは気がついてしまった。
混乱しているノチオの神経を逆なでするように、彼女の携帯電話の着信が鳴った。
“ちょっとごめんね”と言ってから彼女は携帯電話を見た。
「あ。樫尾先生からメール。」
「・・・」
もう、ノチオには返事をする余裕もなかった。
彼女がメールを読むのを、ジリジリする思いで待った。
「あぁ。。ごめん、ノチオくん。樫尾先生がなんか用事なんだって。私ちょっと行ってくるね。じゃあ、また明日。」
「え。オレ待ってるよ。」
こんな心境のまま家路に着くのは耐えられないと感じたノチオは、思わずそう言った。
「いいよ。悪いもん。それに待たせてると私も気になっちゃうし。」
「そ、そうかぁ。。じゃ。。」
ノチオは渋々承諾し、ユタカのところへ向かう彼女を見送った。

~つづく~


*この物語の登場人物は、Perfume3人をイメージしていますが、架空の人物です。
*ストーリーは、ツアー「GAME」の連続ドラマを元にしていますが、同じではありません。
ご了承くださいませ。


補足
「コンピュータードライビング」

「リニアモーターガール」のカップリングです。

この曲はA面にしてもおかしくないくらい、キャッチーです。
ライブでも盛り上がる曲ですね。
最近のライブでは掛声が変わってしまったのがちょっと残念。
でも、この曲はやっぱりライブでぜひ楽しみたいです。
ダンスがカワイイですし、
なんか、3人とも楽しんで踊ってるみたいですし。
それでも詞は、ちょっとシビアなんですよね。
erfumeらしい曲だと思います。