『アトマイザーの告白/art of Perfume』


8.パーフェクトスター・パーフェクトスタイル


2回目の「補習」も終わった頃、ユタカは彼女の事を考える時間が多くなっていた。
学校内でも、何気なく彼女の姿を探している自分が不思議だった。
ユタカは自分の心を観察し分析していた。
“これが恋愛なのかどうか?”
一度話をしただけの女性に恋愛感情を持つなんて事は今までになかった。
観察して、あらゆる情報を分析して、好きになるかどうか決めるユタカにとっては
短期間の恋愛など、ありえない事だった。
“星を見つけるには、正しい情報と冷静な根気が必要”
という天文観察学に対するユタカの考えは、恋愛にも活用されていた。
ましてや、生徒にそんな感情を持つ事は考えられない。
しかし、彼女に対して心を許しているのは確かな事実だった。
「先生と生徒」と言っても、年齢差は4歳程度だ。
それに、あの心地よい少し懐かしいような感覚はなんだろう?
答えの出ないまま、次の土曜日、3回目の補習の日が来た。
勉強の進み具合から考えると、この日が最後になる予定だった。

恒例の“ファミリーレストラン補習”は順調に進み、無事に終了した。
「じゃあ、休んでいた分はここまで。次の授業からはついてこれるから安心しなさい。」
「ありがとうございました。樫尾先生。」
彼女は嬉しそうに笑った。
「樫尾先生のおかげで助かりました。何かお礼しないと。」
「いや、いいよ。そんな・・・」
ユタカはそう言いながら、良いアイデアを思いついた。
「そうしたらさ、あ~ちゃん。ひとつお願いを聞いてくれるかな?」
彼女はきょとんとした表情でユタカに視線を向けた。
「なんですか?」
「ボク、池袋のプラネタリウムと水族館に行ってみたいんだけど、一緒に行ってくれないかな?」
ユタカの提案に彼女は“賛成”の笑顔を浮かべた。
「あ。私も行ってみたかったんです!」
「じゃ、明日行けるかい?」
「明日は・・・はい。大丈夫です。」
「それじゃ、詳しい事は今夜にでもメールするから、アドレス交換しよう。」
「はい。あ。でも私、赤外線通信とか、よくわかんない・・・」
「ああ。じゃボクがやってあげるよ。」
彼女から携帯電話を受け取ると、ユタカは手馴れた操作でアドレスと電話番号を相互交換させた。
彼女は、興味深そうにニコニコしながら様子を見守っていた。
「これでOK。じゃ、今夜連絡するから。」
「はい。お願いします。でも、これってお礼になってるんですか?」
「ああ。とても嬉しいお礼だよ。」
ユタカは、3回の補習の雑談の中で、彼女の趣味や行きたい所の情報を仕入れていた。
そのデータを活用し、ごく自然に彼女をデートに誘い、アドレスと電話番号を入手した。
ユタカは、そのデートで彼女の最終観察を行ない、恋愛に発展させるかどうか決めるつもりだった。

日曜日、昨夜メールで決めた時間と場所に二人は来ていた。
梅雨も明けそうな良い天気の休日、
彼女のワンピースはいつもより少し夏色だった。
まず、二人はプラネタリウムに入った。
半円球のドームの中は心地よく、映し出される星空は実際の夜空よりもリアルで
観る者をロマンチックな星の世界にいざなった。
ユタカは彼女を観察していた。
圧倒的な星に感激し、時には両手を祈るように組んで星に没頭していた。
「ほら見て、あれがうお座だよ。」
とユタカが言うと、
「私、みずがめ座です。」
と、訳のわからない答えが返ってきた。
その計算外の返答は、ユタカにはとても楽しいものだった。

その後、ユタカのお奨めのカフェで二人はコーヒーを楽しんだ。
彼女は、プラネタリウムの話をするのに夢中だった。
「私。将来は絶対プラネタリウムのある家に住む!」
と力強く断言していた。

次に水族館に向かった。
夏の水族館は涼しげだった。静かで水の多い環境はリラックスできた。
彼女は、19歳らしい抑え目なはしゃぎ方で楽しんでいた。
1通り見て回ると、彼女は「マンボウがいない・・・」とつぶやいた。
聞くと、マンボウの形が好きらしく見たかったそうだ。
「残念だったね。そう言えばマンボウも食べると美味しいよね。」
ユタカがそう言うと彼女は驚いた目で見つめた。
「マンボウ食べるんですか?樫尾先生。」
「前に食べたよ。」
「・・・先生・・嫌い・・・」
彼女は背中を向けてつぶやいた。
「・・・あんな・・かわいい・・お魚なのに・・・食べるなんて・・・」
見たかったマンボウが見れなかった上に、「食べる」というショッキングな事実が判明してなのか、
彼女はすっかり機嫌を悪くしたようだった。
「あ。ごめん。もう、これからは絶対食べるなんて言わないから!」
ユタカが焦って謝ると、彼女は振り向いて
“ヘヘヘ、冗談ですよ”と笑って言った。
「私も昔食べましたもん。美味しかった。かわいくって美味しってマンボウ最高!」
彼女はニコニコしていた。

ユタカは、すっかり彼女のペースにハマっていた。
なぜか不思議に心地よいものだった。
それは、いつもより近くに感じる彼女の、甘く涼しげな香りのせいかも知れなかった。
ユタカの最終観察は終了した。
後は、今夜家に帰ってデータを分析して結果を出すだけだった。
しかし、ユタカ自身、分析結果に関わらず答えはもう出ていた。
“彼女と一緒に居ると楽しい”
感情が分析結果に勝るのは、ユタカにとって初めての事だった。

~つづく~

*この物語の登場人物は、Perfume3人をイメージしていますが、架空の人物です。
*ストーリーは、ツアー「GAME」の連続ドラマを元にしていますが、同じではありません。
ご了承くださいませ。



補足
「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」

個人的には、ものすごく好きな曲です。
曲は良いですし、アレンジの切なさは心奪われますし、
ダンスはめっちゃカッコイイですし、
この曲を最初に聴いたときは、ホントに驚きました。
アイドルの歌う曲じゃない!
カッコ良過ぎる!
でも、Perfumeが歌うと
この曲がさらに素晴らしいモノになる!



ヘッドフォンで聴いてもライブで聴いても最高!
大好きです。