『アトマイザーの告白/art of Perfume』


7.エレベーター


「天文観察学」の補習がおこなわれていた土曜日の午後、

ノチオは1人で家の近所の河原を走っていた。

いつものジョギングコースだった。

気分的にすぐれない事がある時など、ノチオは身体を動かして紛らわすタイプだった。

時々、風邪の引き始めの時も「調子が出ない」と思って走り、

風邪を本格化させる場合もあった。

今回は、「気分がすぐれない」のではなく「すぐれ過ぎ」であった。

“あ~ちゃんが好き”

その想いに気が付いたノチオは、気分が高ぶってどうしようもなかった。

とてもジッとしていられない心境だった。

それでとりあえずジョギングを始めたのだった。

走れば、少しでも冷静になれるかと思ったが、

ランナーズハイになっては、彼女を思い出し、

苦しくなっては、彼女を思い出し、

止めるタイミングを逃して、いつまでも走り続けていた。


日曜日、運動では冷静になれないと思ったノチオは、勉強をしようと思った。

「天文観察学」について、少しでも勉強すれば彼女に教えて上げられる、

彼女の役に立てるかも知れない。

そう思っての事だった。

そう思って勉強を始めては見たものの、「天文観察学」は予想以上に強敵だった。

あまり理解できないまま、夕方を迎えてしまった。

それでも、「何か」に集中した週末は、ノチオにとっては有意義だった。

それに、「明日は彼女に会える」と思うと、

子供のように「早く明日になれ!」と願うのだった。



月曜日の朝、ノチオは気合を入れて学校へ向かった。

週末の2日間が、これほど長く感じた事は今までなかった。

学校までの間も彼女の事をどうしても考えてしまう自分がいた。

この間、自分がフリーズしてしまい聞きそびれたメールアドレスを

出来ることなら聞きだしたい。

でも、この間みたいに驚かせてはいけない。。。

でも、何かの時には自分が元気付けてあげたいから、聞いておきたい。。。

でも、あまりしつこく聞くのも印象が悪い。。。

でも、もっと近づきたいから聞きたい。

でも。。。


答えが出ないスパイラルな悩みに頭を悩ませるノチオだった。


いつもの教室の席に座っていると、

いつものように彼女が

いつもの香りと共にやってきた。

「おはよう!ノチオくん。」

「お、おはよう。あ~ちゃん。」

彼女の顔を見た途端、つまらない悩みはどうでも良くなった。

今は彼女とこうして普通に話せるだけで充分だと思った。

「どうしたの?ノチオくん。顔が赤いけど。。。」

心配そうに顔を覗き込む彼女は、いつものように優しかった。

「え?そ、そうかな?」

「私に会えて、嬉しいから照れてるの?」

「え?!」

いきなり確信を突かれて、ノチオは返事に困ってしまった。

“や~だ!冗談よ”と

いつものように彼女は笑っていた。

いつものように幸せで楽しい時間だった。

「そうだ、あ~ちゃん。オレ昨日さ、天文観察学をちょっと勉強したんだ。

 休んでた所で、なんか解らない事があったら聞いて。

・・・ほとんど、理解できてないけどね・・・」

ノチオは軽い気持ちで言ってみた。

“じゃ、一緒に勉強しよう“的な展開も淡く期待していた。

「え?ホント?私もね、土曜日に天文観察学、勉強してたんだよ。」

「へえ。そうなんだ。」

「うん。樫尾先生にね、補習してもらってたの。」

「え?」

彼女の返答は、ノチオの想定にはないものだったので、おもわず聞き返してしまった。

「樫尾先生の補習?」

「うん。」

「学校で?」

「ううん。休日だもん。学校じゃなくて外で。」

彼女は、なんでもない事のように普通に話していたが、ノチオにとっては信じられない展開になってしまった。

「え…っと、樫尾先生と、あ~ちゃんと他に誰と?」

「二人でだよ。」

「そ、そ…うなんだぁ…」

ノチオは、懸命に平静を装っていたが、意識の限界は近いように思えた。

「がんばって勉強して、随分わかったんだ。ちゃんとわかったらノチオくんにも教えてあげるね。」

そう言うと、彼女は小さくウィンクをした。

そのキュートさは、ノチオにとっては感電してしまうほどの破壊力だった。

そのまま授業が始まったが、この日もまた、ノチオはまったく授業を聞く精神的余裕はなかった。


~つづく~


*この物語の登場人物は、Perfume3人をイメージしていますが、架空の人物です。

*ストーリーは、ツアー「GAME」の連続ドラマを元にしていますが、同じではありません。

ご了承くださいませ。



補足
「エレベーター」


「モノクロームエフェクト」のカップリングです。
この曲は、もうライブでもほとんど聴けなくなりましたね。
インディーズ時代らしく、詞にちょっと毒があるのが良いです。
シングルCDで聴くと、
「エレベーター」から次の「おいしいレシピ」へのつながりが
カッコいいです。
っていうか。。。
この曲、このCDでしか聴けないのかな?