『アトマイザーの告白/art of Perfume』


4.コンピュータシティ


一日にして天国と地獄を味わったその日、ノチオはなかなか眠れなかった。

携帯電話のメールアドレスを聞く事が、そんなに悪い事とは思えなかった。

しかし、彼女の態度の変化は予想外のものだった。

もしかしたら、携帯電話を持ってないのかもしれない、などと、

なんとか良い方向へ考えようと努力してもみたが、いまどきあり得ない事だったし、

彼女の黄色い携帯電話を見た事もあるのだった。

答えの出ない疑問に、ノチオは頭を悩ませた。

とりあえず、明日もう一度謝るしかない。

ノチオはそう決心すると、ひたすら朝を待った。

その日の夜はノチオにとって、永遠に続くと思われるくらいに長かった。


次の日の朝、ノチオは朝の準備ももどかしく家を飛び出した。

前の日に自転車を駅に置きっぱなしにしていたので、駅まで走った。

ノチオは走ると元気になり、前向きになれる性質だった。

気分を高揚させて、大学前の駅で彼女を待った。

何本も電車を見送った。

何人もの友達も見送った。

しかし、遅刻ギリギリの時間になっても彼女は現れなかった。

仕方なく、見切りをつけて大学まで走り始業間際に教室に入った。

すると、彼女はすでに来ており、いつもの席で心配そうに教室の入り口をうかがっていた。

ノチオを見つけると彼女の顔はパッと明るくなった。

ノチオは大急ぎで彼女の隣に着いた。

「もう。ノチオくん、来ないかと思ったぁ。」

「駅で、あ~ちゃん待ってたんだ。」

「え?私、ノチオくんに謝ろうと思って、今日は早めに来て教室で待ってたの。」

「そうか。それじゃ、いくら駅で待っても会えないはずだ。」

彼女の顔を見れた事と、いつも通りに話してくれた事に、

ノチオは思いっきり安堵した。

席についたと同時に、講師が入室し出席を取り始めたので、

仕方なく二人の会話は中断されてしまった。

話の続きができないのは残念だったが、

今日も彼女が隣に居てくれる事に、ノチオは大きな充実感を感じていた。


授業が始まり、二人とも真面目に授業を受けていたが、

しばらくすると、彼女がノチオに顔を寄せて、ひそひそ話しかけてきた。

「ノチオくん。昨日は、ホントにごめんね。」

いつもより近い彼女に、ノチオは少し焦った。

どうも昨日から彼女の事を変に意識してしまう自分をうまく制御できずにいた。

「いや。オレの方こそごめん。」

なるべく平静を装いながら、ノチオも返事をした。

「急だったから、ちょっとビックリしたの。」

「そうだよね。いきなりだったもんね。もう忘れて。」

「ノチオくん。優しいね。」

彼女の褒め言葉は、うまく制御できていないノチオの心をさらに揺れ動かした。

どう答えていいのかわからずに、ノチオはなぜか困った顔になってしまった。

そして彼女が、ノチオに向けてゆっくりと言ったのだった。

「私ね、ノチオくんのこと、好き・・・」

「・・・ッ!!」

突然の彼女の言葉に、ノチオはすっかりフリーズした。

そんなノチオを見つめながら彼女は言った。

「な~んて、冗談よ。」

そう言うと、彼女はニコニコ笑っていた。

天真爛漫というのか、小悪魔的というのか、

ノチオの心はフリーズしたまま振り回されていた。

彼女の笑顔を見ながら、彼女の「好き」と「冗談よ」の言葉がノチオの頭の中でリフレインしていた。

ノチオはフリーズしたまま、落ちた。

意識も落ちた。

椅子からも落ちた。

でも、それよりなにより、

恋に落ちた。

正確に言うと、きっと前からノチオは彼女に恋していたのだ。

もしかしたら、出会った時から好きだったのかもしれない。

恋愛に慣れていないノチオは、自分でそれに気付かないでいた。

しかし、彼女の言葉で完全にそれに気が付いたのだった。

彼女が冗談で言った事だったにしても、「好き」という言葉はノチオの「好き」という意識を覚醒させ、そのまま彼女に反射させた。

“オレは、あ~ちゃんが好きだ”

気が付いてしまった。

気付いてしまった想いは、もう戻せない。

ノチオはなす術もなく「片想い」の大きな波の中に叩き込まれたのだった。



~つづく~


*この物語の登場人物は、Perfume3人をイメージしていますが、架空の人物です。

*ストーリーは、ツアー「GAME」の連続ドラマを元にしていますが、同じではありません。

ご了承くださいませ。



補足

「コンピュータシティ」


メジャー2枚目のシングルです。

この曲はやはりダンスのインパクトが大きいです。

この作品からPVもめっちゃオシャレになりました。

「リニアモーターガール」「コンピュータシティ」「エレクトロワールド」

の”近未来3部作”は、

詞に現実感がなく、曲がすごく切なくて、

ハマッたらやめられない魅力があります。

ヘッドフォンでじっくり聴かれる事をお奨めします。