『アトマイザーの告白/art of Perfume』
3.スウィート・ドーナッツ
あの雨の日から1週間、梅雨らしく太陽がすっかり引きこもる天気が続いた。
その間、学校でノチオは彼女に会う事はなかった。
連絡を取りたくても取る方法がなく、心配は日に日に増して行くばかりだった。
ノチオは友人から心配されるくらいに元気をなくしていた。
一応、「太陽がないと元気出ない体質だから。」と、友人にも自分にも言い訳したものの、
ごまかしきれるものではなかった。
気を紛らわす為に、無茶な運動などもしてみたが、頭の中がクリアになった分だけ彼女の事を考えてしまうのだった。
何をしても集中できず、
何を見ても色がなく白黒の景色を見ているようだった。
長く続いた雨が止み、久しぶりに太陽が眩しい日。
ノチオは教室のいつもの席で、元気なく机に伏せっていた。
もう永遠に彼女に会えないような落ち込んだ気分で、沈み込んでいた。
そんなノチオの元に、どこからか心地よい甘く涼しげな香りが漂ってきた。
それは、決して忘れる事のない、彼女の香りだった。
“あ~ちゃんの香りだ!”
ノチオは勢いよく飛び起きて振り向いた。
「きゃあ!」
ノチオのすぐ後ろに、彼女の姿があった。
突然ノチオが動いたので驚いたようだった。
「もう。びっくりさせようと思って、そ~っと近づいたのにぃ。」
拗ねたような笑顔で彼女は言った。
「あ、あ~ちゃん。。。」
色んな感情がノチオの心の中を駆け巡り、軽くパニックになってしまい、
彼女の名前を呼んだだけで、何も話せなかった。
「学校、久し振り。なんか照れちゃうね。」
「・・・・・」
「あれ?ノチオくん?どうしたの?私のこと忘れちゃった?」
反応のないノチオの目を彼女は覗き込んだ。
「わ、忘れるわけないよ。最近全然会えないから心配してたんだ。」
「ごめんね。心配かけて。なんかね、ずっと熱が下がらなくって。
私、太陽がないと元気がでない“太陽系”タイプなの。」
「あ。オレも同じタイプだ。」
「あー。ノチオくんも“太陽系”っぽいもんね。」
ノチオは、“太陽系タイプ”という言葉が妙に気に入って楽しかった。
彼女を元気にしてくれたのが太陽なら、最大限の感謝を捧げたい気分だった。
「で、あ~ちゃん、もう大丈夫なの?」
「うん!すっかり回復。」
「良かった。良かったね。良かったぁ。」
二人で笑い合った時、講師が教室に入ってきた。
「あ。樫尾先生だ。」
「授業始まるね。」
「樫尾先生の授業難しいのに、私、休んで抜けちゃったからなぁ。」
「あぁ、オレも樫尾先生の授業だけは、よく解ってない・・・」
「抜けた分、別で教えてもらえるように頼んでみようっと。わかったらノチオくんにも教えてあげるね。」
「お~い、そこ、私語禁止だよ。」
講師に注意された二人は肩をすくめるのだった。
その日、ノチオは自分でも驚くほど元気だった。
何をしても楽しいし気合が入った。
何を見ても鮮やかに映った。
ノチオはその勢いで、彼女の連絡先を聞く事を決意していた。
連絡先を聞くぐらい、普通に考えれば普通の事なのだが、
しばらく会えなかったせいで、変に意識し特別な事のように思え、
余計な緊張感を抱くハメになっていた。
授業が終わり、彼女は用事があるという事で講師室に向かうらしかった。
ノチオはカフェで待ち合わせする事を提案し、彼女も快諾した。
1時間ほど待つと、彼女は小走りにやってきた。
「ごめんなさい。お待たせ。」
「ううん。大丈夫だよ。」
「もう、樫尾先生、女子に人気あるから、なかなか順番が回ってこなくって・・・」
「樫尾先生に用事だったの?」
「うん。休んでた分の補習して下さい。って。あ。そうそう。」
彼女はバッグからノチオの傘を取り出した。
「これ、ありがとうね。嬉しかった。それとね・・」
そう言うと紙袋を取り出した。
「美味しいかどうかわからないけど、ドーナツ作ったんだ。」
「え?オレに?」
「うん。お礼に。」
一瞬沈黙して、二人は顔を見合わせて笑った。
「ノチオくん、ごめん。思い浮かんだから言っちゃった。」
“つまんない冗談よね”と彼女はニコニコ笑っていた。
「あ~ちゃんがオヤジギャグって、ミスマッチでいいね。」
ノチオは笑顔で紙袋を受け取りながら、その甘い匂いを思いっきり吸い込んだ。
そのうっとりするような香りに勇気付けられて、ノチオは彼女に切り出した。
「あ、あのさ、あ~ちゃん。」
「なに?」
「あの・・・。あ~ちゃんの携帯のメアドとか、教えてほしい・・」
「え?」
彼女は、驚いた表情でドギマギし始めた。
ノチオは彼女の変化に対応できなかった。
「あの・・その・・ごめんなさい!」
彼女はうつむいて謝った。
ノチオは、彼女の言葉に自分がとんでもない事をしたような気持ちになった。
「あ!いや。こっちこそごめん。急に変な事言って。ごめんね。今言った事忘れて。ね。ほんっとごめん。」
必死で取り繕ったが、居たたまれない気持ちはどんどん大きくなって行った。
彼女はうつむいたまま、顔を上げようとしなかった。
「ほんとにごめん。あ、じゃあ今日はもう帰るね。また明日ね。ほんとにごめん。」
彼女は小さくうなずいたのを見届けて、ノチオは半ば逃げるようにカフェをあとにしたのだった。
ノチオはその日、家まで2時間歩いて帰った。
途中、彼女からもらったドーナツを食べてみた。
その甘さが妙に切なかった。
~つづく~
*この物語の登場人物は、Perfume3人をイメージしていますが、架空の人物です。
*ストーリーは、ツアー「GAME」の連続ドラマを元にしていますが、同じではありません。
ご了承くださいませ。
補足
「スウィート・ドーナッツ」
2007年までは、ライブには欠かせなかった名曲。
僕がPerfumeにハマるキッカケになった曲です。
メロディラインが好きです。
ダンスも好きです。
でも、この曲のライブでの一体感が大好きです。
最近ではあまり披露されなくなったのは寂しいですね。
ちなみに、シングル版とアルバム版は少し違います。
ライブはアルバムタイプとなります。
僕の周りではシングル版の方が評判が良いです。