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献花台まであと数歩。その時、人混みの中を何処からかノートがまわって来た。hideちゃんへのメッセージを書くノートだった。書く事を許された時間は数十秒。慌てて、「ありがとう ずっと大好き」とだけ書いた。殴り書きに近かったかもしれない。陳腐かつ浅いメッセージだと後で思ったけど、不意に来られたからアタマが回らなかった。
ついに順番が来た。
今でもおぼえている。献花台に辿り着き、山のように詰まれた花を目の前にした瞬間、…あたしの中ではHIDE YOUR FACEの1曲目に入っているSEが鳴り響いた。無音から始まり、微かな音が鳴り始め、急加速でボリュームがMAXへと上がっていく。そして曲がスタートする。
あの曲。まさにあの曲の状態だった。
訃報を聞いた2日の夜から自分の中で何かが壊れた。感情を失った。楽しい、悲しい、おなかが空いた、眠たい。そういう感覚が無くなっていた。築地に向かう道中も、参列している間も、ただずっとぼんやりしていた。泣く事もなかった。ただ静かに時が流れていて、見ている景色や目の前の出来事は全て遠い世界のものに感じていた。視界から色が消えていた。
それが、花を手向けた瞬間に、ようやく全てが現実と解った。急に周りがうるさくなり、状況が理解できた。
hideちゃんが、亡くなった。
だから皆が泣いている。
ああ、全部本当だ。
初めて涙が出た。あふれて、あふれて、止まらなかった。
友達に支えられて献花台を離れた。何とか歩いて進み、出口に進んだ。その区域の光景はショッキングだった。
もう涙も出なくなって声も枯れているのに、路上に伏しながら泣き叫び続けている人。パニック状態で暴れるのを救急隊二人掛かりで押さえられ、救急車に押し込まれている人。待機している数台の救急車。そこらじゅうに人が倒れていた。
地獄絵図とはこういうものか、と自分も泣きながら思った。
人混みをぬって歩き、築地本願寺の正面が見える位置まで行った。しばらく無言で眺めた。時間は昼だった。相変わらず大混雑しているし、徹夜の 疲れもあり、あたし達はその場を後にした。ちなみに、本当はその後出棺が待っていたんだけど、知らなかったため帰ってしまった。今でも居合わせたかったと悔やんでいる。
友達とは再会を約束して力無く別れた。一人で新宿に向かい、帰るための特急に乗った。席に座った時から涙が止まらなくなった。窓の外を見てごまかしながら、家まで泣いて帰った。
献花することでようやく事態を理解し、現実を確認した。
