Jill, Uncredited | CAHIER DE CHOCOLAT

Jill, Uncredited


何十年にもわたって、2,000以上の映画やドラマに出演してきた英国人のエキストラ俳優(「background actor:背景俳優」とも呼ばれる)、ジル・ゴールドストーン。彼女の出演シーンのみで構成された短編映画。セリフはない、映っている時間は数分から数秒、彼女の姿にピントが合っていないものもある。ふつうに観ていたら、彼女に注目する人はおそらく誰もいない。けれど、そんなジルの出演シーンばかりを集めた映像をしばらく観ていると、彼女がどこにいるかを探し始めている自分に気づく。そのうちに彼女の顔をすぐに見つけられるようにもなってくる。そして、これは実際の世界と同じじゃないか、とはっとする。誰もがメインキャストであり、誰もがエキストラでもある。興味を感じるかどうか、おもしろいと思うかどうかは、人間の意識が少し変われば、大きく変化する。だから、あるきっかけでそれまで見向きもされなかった人や物にとつぜん注目が集まったり、その反対にあっという間に忘れ去られてしまったりする。きっかけは偶発的、自然発生的なこともあれば、裏に仕掛けた人間がいることもあるだろうけども。そんなことをこれ以上ないほどの実感を持って感じながら、ただひたすらジルの姿を追う18分間。MUBIの紹介文には「催眠効果のある短編」と書かれている。ほんとうにその通りだった。「催眠」といっても眠くなるということではなく、催眠術にでもかかったかのようにジルに対する興味が急にわいてくる、という意味で。さらには、何度もくり返し観たくなるような中毒性さえある。とても素敵な作品を観たな、と思った。