『ウェンズデー』おまけの細かい話 | CAHIER DE CHOCOLAT

『ウェンズデー』おまけの細かい話


IGN Japanでの連載“映画衣装の密かな愉しみ”、第18回はNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』です。こちらは記事の内容を補足する細かい情報が中心になるので、まずは連載の記事のほうを読んで下さい。

映画衣装の密かな愉しみ:第18回『ウェンズデー』現代を生きるティーンエイジャー「ウェンズデー・アダムス」のスタイル
https://jp.ign.com/clothes-on-film/66887/feature/18

『ウェンズデー』だけではなく、これまでの“アダムス・ファミリー”も含めて、興味深い話ではあるけれども、文字数の関係だったり、細かすぎたりで記事には入れられなかったことをここに書いておきたいと思います。

まず、チャールズ・アダムスのオリジナルのコミックの段階ではどのキャラクターにも名前がついていなかったんだそうです。その中で最初に名前がついたのがモーティシアとウェンズデー。1962年にふたりをセットにした人形が発売されたときに名前がつけられたのだとか。ウェンズデーのスタイルはオリジナルのコミックの時から基本的にはあまり大きな変化はないのですが、アニメ作品の中にはちょっと違うものもありました。1972年の『The New Scooby-Doo Movies』と1973年の『アダムスのおばけ一家(アダムス・ファミリー)』は全体的に少しカラフルで、なんとウェンズデーがピンクのワンピースを着ている! その後、1992~1993年の『The Addams Family』では、ワンピースはネイビーブルー、タイツはレッド。


『The New Scooby-Doo Movies』(1972年)


『アダムスのおばけ一家(アダムス・ファミリー)』(1973年)


ウェンズデーが制服に合わせている厚底のレザーシューズはおそらくプラダの商品。このドラマ以前にもプラダと“アダムス・ファミリー”にはつながりがあって、プラダのAutumn/Winter 2019コレクション“Anatomy of Romance(ロマンスの解剖学)”では、ウェンズデー(前髪なしバージョン)のように三つ編みをきゅっと結んだモデルたちが登場しました。ショウのBGMには“アダムス・ファミリー”のテーマが流れていたそうです。コレクションのアイテムはモノトーンのみではないけれども、ボーダーのTシャツや大きな靴など、『ウェンズデー』のウェンズデーを感じさせるものもあります。フランケンシュタインのモチーフは1935年の映画『フランケンシュタインの花嫁(Bride of Frankenstein)』から。


動画内には“アダムス・ファミリー”のテーマが流れているところは含まれていないです。


Rave’NのドレスはAlaïaの2021 READY-TO-WEARコレクションの商品。商品画像を見ると、変更された部分がよくわかります。


アイテムの中ですごくおもしろいと思ったのは、ウィームス校長のジュエリー。すべてSchiaparelliというブランドのものです。ダリの作品みたいなデザインが素敵。演じているグウェンドリン・クリスティーの私物というのがまたすごい。


『ウェンズデー』が海外のSNSで「バスった」要因のひとつなのかも?と思ったのが、「Dark Academia(ダーク・アカデミア)」と呼ばれるサブカルチャー。Dark Academiaでは、読書、書き物、学びといったものが重要視されていて、ヴィジュアル的には伝統的なアカデミックなイメージで、ゴシックのエッジを効かせたようなものも多い。「Dark Academia」で検索してみるとわかるのですが、ネヴァーモアの雰囲気に近いダークでゴス寄りのタイプから、ハリー・ポッターの世界観にも似たブラウン系の英国風のタイプまで色々あるみたいです。

Dark Academiaというカルチャー自体は特に新しいものではなくて、以前からインターネット上に存在していたようです。「最初にDark Academiaを知ったのは、2014年にTumblrだった」というユーザーもいます。確かにいかにもTumblrっぽい。おそらくもっとニッチなものだったはず。それがここ数年の間でユーザーが増加して、TikTokやInstagramに「#DarkAcademia」とタグ付けしたポストが投稿されている、と。いきなり陽の当たるところに出てきた感があります。ユーザーの多くは14~25歳で、パンデミックのために現実世界の学校に通ったり、学校行事に参加したりできなくなった学生たちがインターネット上に学校生活を投影したと言われています。それがダークでやや歪んだ形なのは、フラストレーションがたまった彼らの心理が反映されているのかも……? ただ、学校行事に参加したいとかいう時点でダークではない気もしますが。

Dark Academiaのイメージソースは、19~20世紀初頭のイギリスのパブリック・スクール(名門私立校)やボーディングスクール(全寮制の学校)、あるいは、ニューイングランド(アメリカ合衆国北東部の6州)のプレップスクール(大学進学の準備学校)やアイビー・リーグ(アメリカ合衆国北東部にある8つの私立大学の総称)での学校生活。イギリスとアメリカ東海岸ではずいぶん違うので、この辺りも割とざっくりでな感じ。

Dark Academiaの特徴的なアイテムは、ニットのカーディガン、ツイードのパンツ、レザーのサッチェルバッグ(背負えるようになっている学生カバン。まさにウェンズデーが背負っているバッグそのもの)、ダークな写真、意味深な詩、ろうそくの横に置かれたガイコツ、といったもの。学生の間のトレンドなので本気のヴィンテージではなく、ユーザーたちが着用しているのは古着屋などでかんたんに入手できるアイテムがほとんど。それらの中でも、Dark Academiaを代表するアイテムと言われているのはブレザーで、性別を問わず誰でも着られるアイテムのブレザーには「ジェンダーやセクシャリティのステレオタイプの壁を打ち破るもの」という要素も含まれているのだそう。ネヴァーモア学園でもストライプのブレザーだけは基本全員が着用していますが、男女問わずそれぞれに個性的な着こなしをしています。ネヴァーモアはそのほかの指定と思われるアイテムもすごく多いし、ボトムも数種類あって(スカートとパンツというだけでなく、スカート丈やパンツの太さもさまざま)、どれを履いてもいいようです。ヴァンパイアのヨーコはパンツを合わせています。


今回のウェンズデーの特徴のひとつとなっている前髪。でも、ウェンズデーに前髪が作られたのは今回が初めてではありませんでした。1977年の『Halloween with the New Addams Family』の「ウェンズデー Jr」にも切りそろえた前髪があります。「Jr」ってなんぞ?だと思いますが、この作品のウェンズデーとパグズリーは幼いバージョンとティーンバージョンのふたりずついるんです。もうひとりの18歳の「ウェンズデー Sr」は、初の実写版ドラマ『アダムズのお化け一家』(1964~1966年)でウェンズデー役だったリサ・ローリングが演じています。

右のピンクのドレスが「ウェンズデー Jr」、左が「ウェンズデー Sr」。真ん中は「パグズリー Jr」。


ウェンズデーのネイルがブラックになったのも厳密には今回が初ではなく、『Adult Wednesday Addams』(2013〜2015年)という短編ドラマシリーズのウェンズデーのネイルがブラックです。大人になったウェンズデーを主人公にしたドラマなのですが、インディ作品で、色々あるようなので記事には入れていません。制作・主演のメリッサ・ハンターのHPで全編観ることができます。まだ完結していなくて、続きが気になります。


『Adult Wednesday Addams』(2013〜2015年)


ウェンズデーのメイクについては、かなり細かい情報も公開されていました。「just bitten lip」のために、ジェナの唇で試したカラーは20色くらい。最終的にMACのリップペンシルの「Nightmoth」というカラーに決まったものの、これに合う口紅が見つからなかったので、「Nightmoth」のリップペンシルを砕いて、Dr. PawPawの無色のリップバームと混ぜて、オリジナルのリップポットを作ったそうです。ウェンズデーのメイクアップにかかる時間はトータルでわずか20分ほど。ヘアメイクすべてを合わせて約1時間で現代版ウェンズデーのでき上がり。ヘアメイクのタラ・マクドナルドは、ウェンズデーのルックを再現したい人に向けて、「日常生活の中でも浮かない程度のソフトなゴスルックなので、完璧にやりすぎないこと」とアドバイスしています。今年のハロウィンでウェンズデー・アダムスになりたい人は参考にしてみて下さい。


キャラクターがみんなほんと可愛い『ウェンズデー』、私のお気に入りは養蜂部のユージーン。タイラーも良かったな〜。演じたハンター・ドゥーハンのなんともいえない健気でせつなげな演技も良かったし、ふだんはブラウンのポロでバリスタ、パーティの時は白スーツにライトブルーのシャツとか、ファッションのテイストも良い。そういえば、ひとつ残っている疑問がありまして。なぜウェンズデーのフェンシングのユニフォームはホワイトではだめだったのか? いや、もちろんブラックのほうがウェンズデーらしいし、白と黒の対決は間違いなく画的には強いのですが。考えられる理由としては、ブラックとホワイトでホワイトの分量が多いのは明度高すぎてだめ、とかかな。