Dr.パルナサスの鏡(The Imaginarium of Doctor Parnassus) | CAHIER DE CHOCOLAT

Dr.パルナサスの鏡(The Imaginarium of Doctor Parnassus)


ストーリーのあちこちや結末に関係したネタバレあります。舞台は現代のロンドン。Dr.パルナサス(クリストファー・プラマー)、彼に仕える小人のパーシー(ヴァーン・トロイヤー)、Dr.パスナサスの「スクランプシャス」な娘ヴァレンティナ(リリー・コール)、青年アントン(アンドリュー・ガーフィールド)の4人は「The Imaginarium of Doctor Parnassus(Dr.パルナサスのイマジナリウム)」と題した興行を行なう一座。彼らの興行スタイルはレトロを通り越して、もはや骨董品で、現代の光景の中ではかなりの違和感がある。その一座にトニー・シェパード(ヒース・レジャー)といういかにもうさんくさい、でもやたらと人当たりのいい男が関わることになる……というのが物語の始まり。馬車馬が引く移動ステージ、寓話から抜け出してきたみたいな衣装(ふだん着にはアンティークの着物がたくさん)、鏡の中に広がるイマジネーションの世界……怪しくて、奇妙で、絵本のページをめくるように美しい。鮮やかだけれど決して毒々しくはなく、少し褪せたような色合いもまたおとぎ話の世界を感じさせる。物語の中心にあるのは、Dr.パルナサスと悪魔Mr.ニック(トム・ウェイツ)との賭けや取り引き。まず1回目は、賛同する弟子を先に12人獲得したほうが勝ちというもの。Dr.パルナサスはこれに勝利して、永遠の命を得る。ただ、彼が悪魔から勝ち取ったのは“不死”で、“不老”ではなかった(!)。時は何世紀も過ぎて時代も変わり、老人になったDr.パルナサスは、ある日、ひとりの女性に恋をした。それががヴァレンティナの母親。Dr.パルナサスは、若返らせてもらう代わりに「娘が生まれたら、16歳の誕生日に悪魔に渡す」という2回目の取り引きをする。3回目は、鏡の中のイマジナリウムで先に自分のイメージに5人誘い込むことに成功したほうが勝ちという勝負。Dr.パルナサスが勝てば、ヴァレンティナは悪魔のところへ行かなくても済む。結局、Mr.ニックが勝利する。それでも、Mr.ニックは、「トニー」を消すことに成功したら、ヴァレンティナは解放してやるという4回目の取り引きをさらに持ちかける。……と、ここまできて、Mr.ニックはとにかくDr.パルナサスとずっと遊んでいたいだけなのかも?という気がしてくる。あと、富や名声のためならなんでもやるような人間はむしろ悪魔以下、ということか、とも。うさんくさい男トニーはイマジナリウムに入るたびに顔が変わる。鏡の中のトニーを演じているのは、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人。撮影の途中でヒース・レジャーが亡くなったため、ヒースと交流のあった3人が彼に代わって演じることになったということなのだけれども、作品自体にまったく、これっぽっちも違和感はない。こういう形で完成したというのはほんとうに見事だと思う。3人の中では、私はジュード・ロウのパートが一番好き。ロシアのマフィアとおかん、巨大な警官の頭、スカートを履いて踊る警察官たち、女装のアントン(アンドリュー・ガーフィールド最高です)……とシュールが爆発。ここだけ見るとほぼスケッチで、パイソンズ・テイストかなり強め(好き)。画像はそのシーンだけど、これだけではまったく意味がわからないかと。エンドロールも凝っていて、最後まで目が離せない。最後の最後にちょこっと笑わせてくれるしかけ(?)もあり。色々な意味で、さまざまなものがぎゅうぎゅうに詰まった、濃くて、素敵な映画だった。