顔たち、ところどころ(Visages Villages) | CAHIER DE CHOCOLAT

顔たち、ところどころ(Visages Villages)

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アニエス・ヴァルダと“フォトグラフール”(photograffeurは “photographer"と"graffeur、フランス語でグラフィティアーティストのこと”を組み合わせた造語)のJRがフランスの各地を旅しながら、行く先々で偶然会った人たちと会話して、写真を撮影して、その写真をその場でアートに変えていく。迫力があって、温かみがあって、人々の心を動かすような作品たち。具体的に説明すると、まずふたりが移動する乗りものはフォトブースとプリンターつきの車(これが可愛くて秀逸なデザイン)で、撮った写真は巨大なモノクロの写真としてその場で大きくプリントアウトできる。それを建物の壁やらコンテナやら給水塔やら色々なところに貼っていく。できあがったものを引きで見たときには圧倒される。とても力強くてとても美しい。でも、模造紙のような紙に印刷して、のり(おそらく水のり)で貼っていくだけなので、時間が経つとはがれて消えてしまう。このはかなさ込みで胸に迫ってくるものがある。撮影するときのアニエスのディレクションやセンスがまたすごく良くて、被写体の魅力が気持ちいいほどに引き出されてる。この映画の撮影当時、アニエスは87歳、JRは33歳。濃い色のサングラスにハットで、どこかゴダールを思わせる見た目のJRがさりげなくアニエスをいたわる姿が素敵。ふたりのやりとりも楽しい。といっても、おばあちゃんと孫ではなく、ふたりのアーティストなのだということははっきりとしている。ゴダールの話は何度も出てくる。思わず笑ってしまうようなエピソードもあったり。思い出話の登場人物なだけではなく、実はゴダールはこの作品ではかなり重要な存在でもある。アニエスはおととし、2019年に90歳で亡くなっている。JRに「死を怖いと思う?」と聞かれて、アニエスは「よく考えるけど怖くはない。最期の瞬間が待ち遠しい。最期だから」と言っていた。なるほど、と思った。アニエスはほんとうに可愛らしくて強くて素敵な人だ。余談だけど、アニエスの(かな?)猫がサバトラのハチワレでめちゃくちゃ可愛い。