『OUT 1: NOLI ME TANGERE』&『OUT 1: SPECTRE』 | CAHIER DE CHOCOLAT

『OUT 1: NOLI ME TANGERE』&『OUT 1: SPECTRE』

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レオを好きになったとき(かなり昔……)から、ずーっと観たい観たいと思いつつ、国内リリースがなくて観るに至っていなかった作品。国内盤はあいかわらず出ていないけど、昨年リージョンフリーのプレイヤーを買ったので、その辺何も気にせず買えるようになった(なんのことはない、このBlu-ray&DVDボックスはUSだったので日本のプレイヤーでも全部再生できましたが。そういうこともある)。ボックスには、12時間55分の『OUT 1: NOLI ME TANGERE』、4時間24分に短く編集されたバージョン『OUT 1: SPECTRE』、 ジャック・リヴェット監督、出演者やスタッフのインタビューで制作をふり返るドキュメンタリー『THE MYSTERIES OF PARIS: JACQUES RIVETTE’S "OUT 1" REVISITED』(110分)がすべてBlu-rayとDVDで収録されています。特典まで両方のフォーマットで入っているのはちょっと珍しいかも。素晴らしい。プラス、フランス語&英語で書かれたブックレットもついている。しっかりしたきれいな紙のソフトカバーの本で、120ページもあって、スチール写真もたくさん。これだけでも販売できそうなクオリティ。素晴らしすぎる。このCarlotta Filmsのボックスセットは、外箱からカラーやフォント、メニュー画面まで、デザインもとても良い。ディスクのメニューの動作がさくさくしているところも良い。字幕のオンオフとか、凝ったメニュー画面よりすっきり操作できたほうがありがたいものです。さて、ボックスセットの説明はこれぐらいにして本編の話。この作品、『OUT 1: NOLI ME TANGERE』の紹介には「13時間近くにわたる大作……」というようなフレーズが常にセットになっていて、いったいどんななんだ?と思っていました。予告編を観てもどんな作品なのかよくわからない。いつか観るときのために細かいことは知らずにおきたかったので、クラウドファンディングで一度上映されたとき(行けなかった)に届いたリーフレットにも目を通さないでおいた。実際どうなのかというと、12時間55分は8つのエピソードに分かれていて、ひとつのエピソードの長さは73分~110分。さらに、「もともとはテレビで連続シリーズとして放映することを想定して作られた」ものなのだとか。ということは、12時間55分の大作ではなくて、8エピソードのシリーズものと思ってオッケーだし、むしろそれで正しいということになる。先日はMUBIの無料デー24時間の間に鑑賞しようとしてエピソード1~6まで一気に観た。おもしろかったけど、最後夜が明けてきて眠かったしちょっと疲れた。今回は1日に1~2エピソードずつ観たので、じっくり観られてすごく楽しかった。バルザックの『13人組物語』に関係している(と思われる)秘密結社「Treize(Thirteen)」を巡って、いくつかのストーリーが平行して進んでいくというふうになっている。そのあちこちがじわじわと交差してくるところがたまらない。あそことここが関連しているのか!とか、あの人とこの人がつながっているのか!とか。ただ、ストーリーといっても決まっているのはアウトラインだけで、あとは演者が好きに発話してよいという即興というスタイルだったそう。ドキュメンタリー『THE MYSTERIES OF PARIS: JACQUES RIVETTE’S "OUT 1" REVISITED』ではそのアウトラインを書いたものが写っていたけども、予定を書いたバーチカルのスケジュール帳みたいな感じで、それが巻物のように長い。誰が何を言い出すかわからないので、誰かがしゃべった内容につなげるために、その前のシーンをあとで作って撮影したりしたこともあったとか。なんて自由なんだ。タイトルの「out」は、「もともとは別の作品のタイトルだったもの(その作品は制作には至らず)で、実はこの作品には合っていなかった。でも逆にそのことがすべてをカバーするような感じになっている。ふつうでない作品にふつうでないタイトルがついてる」、という。さらに、「数字がついているのは成功して続編が出る作品だけど、この作品にそれをつけてみた」というような話も。この「すべてをカバーするような感じになった」というのは、「前作『狂気の愛(L'amour fou)』がせまい場所で行なわれたシアトリカルなものだったのに対して、『OUT 1』は伝統的なシアトリカルのパフォーマンスから外に出ようとしているふたつのグループが登場していて、彼らは完全に『外』にいる」……というのがあとづけで作品を説明するものになったということ。『OUT 1: SPECTRE』で一番たくさんカットされているのはこのふたつの劇団のかなり前衛的なお芝居のけいこシーン。一部分だけ切り取って収録するのは難しかったから、ばっさりカットされているらしい。それ以外にもそういう部分はあって、『OUT 1: SPECTRE』は単純に長いものをかいつまんだダイジェストではなく、完全に別物。えっ、あれないの?というようなシーンがなくなっていたり、シーンの途中でぷつっとカットされていたりするし、シーンの順番も、さらにはエンディングも違う。まあそもそも「spectre」は「亡霊」という意味だし。「Noli me tangere」はキリストの復活に関係したことばとして監督の中にあったものだけれども、この「Noli me tangere(Don't touch me/私に触れるな)」ということばはこの作品の「接近」と「距離」というものに共通していて、「ある登場人物が別の人物に近づいても触れることはない、近づくと静電気が発生したみたいに即離れていく。この映画にはそういうシーンがたくさんある」、と。でも同時に、「好きに解釈していい」とも監督は言っています。そういうところも含めて、固定観念から「出る」心地良さがあるのがこの映画。ふたつのバージョン、どちらがおもしろいかというと、私は『OUT 1: NOLI ME TANGERE』のほうがだんぜんおもしろかった。じっくり観ているうちに、最初は奇妙に感じていたたいこが鳴る音楽(音楽担当は打楽器奏者のジャン=ピエール・ドルーエ)もだんだんみょうに心地良くなってきた。レコードかCDを探しているのですが、リリースはされていないのか見つかっていないです。