クッキー・フォーチュン(Cookie's Fortune) | CAHIER DE CHOCOLAT

クッキー・フォーチュン(Cookie's Fortune)

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原題は『Cookie's Fortune』で、「クッキーのフォーチュン」。おみくじクッキーではなくて、「クッキー」はジュエル・メイという人物の愛称。「フォーチュン」は「運」ではなく「財産」のほう。イースター前のある日、クッキーが大きな屋敷内の自室で自殺を図った。第一発見者が欲と偽善にまみれた利己的な、クッキーの姪で女優のカミーユだったことから話がややこしくなってしまう。殺人の容疑がかけられたのは、クッキーの一番の仲良しで同居人のウィリスだった。……でも、小さな田舎町はとにかくのんびりしている。保安官たちは釣りの話をしてばかり、事件の聞き込みをしていても気になるのは壁にかかった魚の飾り物。自信たっぷりにウィリスは犯人じゃないと言い切るけれど、その理由は「釣り仲間だから」。ウィリスが入れられた留置所の扉も開けっ放しで、かけつけた弁護士と保安官の釣り仲間3人でスクラブル。さらに、ウィリスの友だちのエマが駐車違反の罰金を滞納しているからと言って自主的に留置所に入ってきて、ふたりはろうそくや花が飾られたテーブルで差し入れのイースターディナーを食べる。それに対して、クッキーの屋敷に勝手に移り住んできたカミーユとその妹でエマの母親のコーラの生活は立ち入り禁止テープがはり巡らさられた中でむしろきゅうくつに見える。そのほかにも、エマのボーイフレンド(彼も保安官)から町のお店の人まで、登場する人々はみんなどこかとぼけていてひたすらゆるい。そもそもクッキーの自殺自体も悲観的には描かれていない。前半はかなりゆっくりで地味めな展開で、これはいったいどういう話なんだろう?と思うけど、その前半のていねいな描写が後半の展開に生きてくる。クッキー殺人事件と並行して進行してくのは、カミーユが演出する戯曲の稽古。そしてイースターの日、この舞台の本番中に事件は大きく進展する。最後はアイロニカルでブラックで痛快。それでも空気はあくまでのんびりなまま。終始人々のやりとりや距離感が最高で、ラストシーンも幸福感たっぷりだった。