マーメイド・イン・パリ(Une sirène à Paris) | CAHIER DE CHOCOLAT

マーメイド・イン・パリ(Une sirène à Paris)

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作品紹介によると、「恋を知らぬまま美しい歌声で男性を魅了し、恋に落ちた男性の命を奪ってきた人魚ルラ。失恋から恋を捨ててしまった心優しい男性ガスパール。ふたりの男女がパリで出逢い、恋に落ちる」……ベタすぎて、観る予定にはしていなかった。なんで観ることにしようと思ったのかよくわからない。たぶんパリの街を見たかったんだと思う。でも思ってたのと少し違っていたし、思ってたよりずっと良かった。ていねいに作られた可愛らしいファンタジックな世界でありつつも、そこには想像力をはたらかせる余地が残されている。夢みたいなところもあれば、みょうに現代的で現実的なところもあって、異質なもの同士が混ざり合っているというのがとても好きだと思った(現実的に「ああ、なるほど……」と思ったところもあったし、きっと色々な人に色々な意味で夢を与えてもいるはず)。ガスパールは結構な大人だけれども、彼の中にはピュアな男の子がいる。芝居がかった感じでもなく、無理をしているふうでもなく、この辺りはおそらく演じているニコラ・ヴュヴォシェルのうまさ。これで人魚が美しくなければ説得力がない。でも心配は無用。ルラ(マリリン・リマ)がとにかく美しい。ただ美しいだけでなく、ちょっとすっとぼけた表情やはしゃぐ笑顔もまた愛らしい。これは惚れるだろうと思う。とはいえ、ルラは大勢の人を殺しているという事実がある。そのけろりとした残酷さは、この物語が内包しているダークな一面。視覚的にダークな夜の場面も多いけれど、夜はむしろ真っ暗ではなく常に薄明かりで、青い印象が残っている。実際、青はとてもたくさん出てくる。ルラのうろこも彼女の血液もガスパールのシャツも彼の部屋も水族館も青い。青は少しひんやりしていて、楽しい瞬間にもどこかに潜んでいる物悲しさを感じさせる。楽しさと悲しさ、甘さと苦さ、純粋さと残酷さ、喜びと悲しみ……そういった相反するものがこの映画には詰め込まれている。たくさんのものがごちゃごちゃ並んだそのようすは、決してすべてがきれいに整然と並べられた部屋のようではない。それでもそのないまぜの光景が、ないまぜだからこそ愛おしく感じられる。ガスパールのたいせつなしかけ絵本にもたくさんのものが詰まっていて、可愛らしくて、美しくて、驚きに満ちていた。想像力があるというのは素晴らしいことだ。