インタビュー:ロバート・パティンソンと作品の中をさまよう | CAHIER DE CHOCOLAT

インタビュー:ロバート・パティンソンと作品の中をさまよう

[ORIGINAL]
Getting Lost in the Work With Robert Pattinson
https://www.backstage.com/magazine/article/robert-pattinson-a24-lighthouse-batman-advice-69730/



インタビュー:ロバート・パティンソンと作品の中をさまよう

「僕の唯一のテクニックは、崖をかけ上って、そこから飛び降りること」



「シーンをやろうとしてて車にはねられたら、まったく違うやり方でやることになる」 ロバート・パティンソンはコーヒーをすすり、電子タバコを少しふかす合間にそう言った。僕たちが話をしているミッドタウンのフォトスタジオはきれいに片づけられていた。そこでインタビューしている間、人々(彼のスタッフも)が、話を聞いたり、それを話題にしたりしていることについて、彼は特に気にしていないようだった。

11月の午後、僕たちは演技についての話をしていた。それは明らかに、33歳の俳優、パティンソンがジャーナリストに話すときには慎重にならなければならない多くの話題のうちのひとつだ。「何年もの間、プレスで経験してきたのは、話題になりそうなところだけ3分に縮められるとかだった。だから、まじめに演技について話をしようとしたら、なんかばかみたいに聞こえる」と彼は説明する。「それに、わからないんだよ。もしそれを読んだ誰かが作品を気に入らなかったら、急にまぬけなやつみたいに思えてくるかもしれない。『僕はこれをやっていたのですが、その時はこんなふうに考えていました』って言って、で、読んだ人たちは『まあ、君が何をやっても、つまらないものだけどね!』みたいな」

僕の知る限りでは、パティンソンは車にはねられらたことはない。日常生活でもないし、彼がこれまでに出演した28本の映画のどのシーンで演技する直前にもないのは明らかだ。けれども、ロバート・エガースの『The Lighthouse(原題)』の撮影現場では、役に入るためにそうとうのことをしたとは伝えられている。その白黒のサイコホラー映画では、パティンソンはウィレム・デフォーとともに、ゆっくりと正気を失っていく19世紀の灯台守を演じる。最近のNew York Timesの記事には、カメラが回り始める前、パティンソンは自分で自分ののどをつまらせたり、自分の顔をなぐったりしていたとあった。彼はこれを否定しない。「ウィレムはこのインタビューで、どのシーンでも僕はとにかく自分をおぼれさせようとしてたって言ってたと思う」と彼は加える。「でもそんな感じだったよ!」



彼が言っているのは、身体が反応できる状態にするためにショックを与えるということだ。月並みな言い方だけれども、演じることとは反応することだ。「僕の唯一のテクニックは、崖をかけ上って、そこから飛び降りること」とパティンソンは言う。「まったくうまくいかないこともある。その時はただ狂ってるみたいに見えるだけ。でもそれでも、何も考えずにいられるようになることもあって、それが好きだと思うところ」

『The Lighthouse』は、この風変わりなやり方がうまくいった例だ。パティンソンの演技はインディペンデント・スピリット賞の主演男優賞のノミネートされ、さらに話題となった。オスカーのダークホースだと予想する人もいる。パティンソンは、アワードシーズンの数々の紹介や、メディアへの露出、俳優同士のインタビュー、試写会などに果敢に挑んでいる。今日、インタビューのためにニューヨークのこのスタジオを訪れたのもその一環だ。

パティンソンは、演技の正式なトレーニングは何も受けたことがないことを認めている。ロンドンの緑豊かで美しい地域、バーンズで育った彼の演劇への関心は早い時期にくじかれた。「演劇の先生が言ったんだよ、『やめたほうがいい。君には合っていない』って。学校の演劇のオーディションは受けなかった、すごく恥ずかしいと思ったから」 けれどもティーンのとき、地元のBarnes Theatre Companyを見つけた。そこで彼は、『Guys and Dolls(ガイズ&ドールズ)』でキューバ人ダンサーにキャスティングされるまでは裏方として働いていた。18歳以下限定の劇団だったため、年上の劇団員が卒業したのち、パティンソンはようやく『Our Town(わが町)』の主役を得ることができた。「たまたまジョージ・ギブスを演じられるくらい背が高かったっていうだけ」と彼は言う。

その後、ロンドンでなんとかやっていこうとする若い俳優として、パティンソンは演技コーチ、ハロルド・ガスキンの本『How to Stop Acting』に出会う。「唯一読んだことがある演技の本」だという。「俳優の仕事は役を作り出すことではなく、絶えず、個人として、脚本に反応することだ」というガスキンの理論に夢中になった。



ガスキンは、グレン・クローズやジェームズ・ガンドルフィーニを教えたことで知られ、スタニスラフスキー・システムの厳密で心理学的な側面は採用せず、直感的な方法を好む。「役とは、俳優や監督がその役はこうあるべきだと考えて描いた絵ではない」とガスキンは著書の前書きに記している。「役は存在する人物だ。だから、俳優である私も存在していなければならない。完全に私個人でなければならない。そうあることで、存在する、息をしている人間を観客は目にすることができる。脚本への私の個人的な反応を見た批評家や観客は、それを即興と呼ぶかもしれない。しかし私にとっては、それは対話と行動に対する私の反応であるだけだ。だからこそ、創造的であり、信じられるものなのだ」

当時、パティンソンは俳優仲間のトム・スターリッジ(イギリスのテレビプロデューサーのチャールズ・スターリッジと俳優のフィービー・ニコルズの息子)と同居し、エディ・レッドメインとも仲良くしていた。「みんなお互いが良くなるように助け合おうとしてたんだよ」とその時のことを思い返して、パティンソンは言う。「だから、3人のうちの誰かと一緒にオーディションテープを作るのに3日かけたりとか。みんなお互いにしんぼう強くつき合うんだ。ある意味、演劇学校に行ってるみたいだったと思う」

俳優のコミュニティは、初期の過酷な日々を切り抜けるには絶対に欠かせないものだった。「何百回もオーディションに落ちてるとき、そういう側面があれば、そんなにつらくない。だって、そのあと友だちと出かけられるから」とパティンソンは言う。「みんなでパブに行って、『ああー、あれは散々だった!』って言ったりとか。そういうのがショックをちょっと和らげてくれる」

3人は今でも友だちだ。スターリッジとレッドメインは、このインタビューの前夜、ニューヨークのクロスビー・ストリート・ホテルで行なわれた『The Lighthouse』の特別試写会にも出席していた。レッドメインは、パティンソンは彼が知っている人の中でも一番のシネフィルのひとりだと言いつつ、この映画を紹介した。「僕が最初にエディに会った頃、トムと僕が1日中一緒にやってたことがあったんだ」とパティンソンは言う。「ちょうどCriterionのリリースが増えてた頃で、僕らはお金を全部DVDに使って、1日中映画を観るっていうのを何年もやってた」



パティンソンがそういった名作映画から少しずつ得ていったのは、演技についてよりもテイストに関するものだったようだ。自分のテイストに合ったテイストを持っている人と一緒に仕事をすることが絶対にたいせつだということにパティンソンは気づいた。そして、自分のテイストを磨き、どういったものが好きで、どういったものが好きではないのかを知るには、色々な人の作品を観て吸収するしかない、と。「素晴らしくもできるものでも、監督や編集やほかのみんなのことをいいって思ってなかったら、どうやってもひどいものにしかならない」と彼は説明する。「本質的に監督のヴィジョンを信用してなかったら、無意識のうちにコントロールされないようにしようとするし、そうしたらその映画はめちゃくちゃになってしまう。だけど、契約するときに、この人を信用するんだって自分でわかってたら、そうしたら演技に専念できる。信用してたら、スタッフと一緒にやるのもずっとラクになる。それが唯一の方法だよ。自分が何を好きなのかをほんとうに知ることが。今は、何かあるって思う人たちとだけ一緒に仕事をしてて、そうするとすごく違ってくる」

もちろん、今のパティンソンにはそうするだけの余裕がある。影のあるティーンヴァンパイア、エドワード・カレンを演じた“トワイライト”シリーズに出演したことで、パティンソンは映画スター、ティーンのアイドル、タブロイド誌が追いかけ回す対象、そして、Dior Hommeの顔になった。つまり、有名人ということだ。そういったタイプの、そう、バットマンにキャスティングされるような俳優だ(それにふさわしく、彼はこのニューヨーク滞在ののち、2021年公開予定のマット・リーヴス監督のケープをはおった救世主のスピンオフ映画のプリプロダクションに向かう)。

けれども、“トワイライト”シリーズと『ザ・バットマン』の間でおかしなことが起こった。映画スターとなったあと、パティンソンはアートハウス映画のより小さな役へと方向転換をしたのだ。リスクは承知の上だったが、それらの映画自体はあまりインパクトのあるものでなくても、パティンソンの演技は抜きん出ていた。

つまりこういうことだ。パティンソンは演じる役をあまり区別していないのだ。切ないティーンヴァンパイアもサイコパスの灯台守も、今年の作品『キング』のほとんどマンガみたいにキザな15世紀のフランスの王子でも。

「頭の中でのアプローチ方法は、どれもまったく同じ」とパティンソンは言う。比較的最近、彼はテレビで放映されていた“トワイライト”のひとつを観ることがあった(シリーズのひとつがケーブルテレビで放映されていたときのことだった)。そして、エドワードがベラ(クリステン・スチュワート)にプロポーズするシーンに驚いた。「あれでよかったんだ!って感じだった。だって、あの映画にはすごい考えた、あれには僕はものすごいたくさん考えたんだよ」



役の準備をするとき、彼は自分にどうにも引っかかってくるセリフや瞬間を探す。だいたいは、彼を笑わせるものや無謀なようなものだ。それは、彼が自分自身をまだちょっと成熟していなくて、ちょっと悪いことをしようと思う部分があると感じているからだ。そして、そこから、そのエネルギーから役を作り上げていく。

「僕のわかる範囲だと、いい感じがするときは、『アクション』と『カット』の間で自分がやってることに自分でおもしろいと思えるとき。何か、自分の目の前で起こってることがあるんだ」と彼は言う。「そのシーンを演じようとしてるだけだと、何も起こってないみたいに見える。だから、自分の人生の中の、そのときほんとうにおもしろいと感じるあらゆることから引き出そうとしてたら、その役につながりのあるやり方を見つけようとしてたら、もうちょっと生きたものになると思う」

窓の外の空には雲が低く垂れこめて、午後は少し早い黄昏時へとゆっくり向かっていた。スタジオの照明も薄暗く感じられるくらいになっていたが、僕らはふたりとも照明のスイッチを探そうとはしなかった。インタビューの時間は終わりに近づいていた。最後に、俳優を目指す人たちから最もよく聞かれる質問について、パティンソンにたずねた。「たくさんの人がエージェントの見つけ方を聞いてくる」と彼は言った。

しかし、それは彼らが探すべきものではないとパティンソンは言う。そうではなく、彼ら自身のような、ほかの期待できる新人を探すべきだと。特に、胸の高まりを感じさせるような作品を作る新人監督だ。「制作してる人はYouTubeでも見つけられる。『演技をすごく良く見せてる!』って思うような人、そういう人たちをほかの人より早く見つけたら、その期待の新人監督と一緒にやる人になれる。そうすれば、それが自分のキャリアになる」とパティンソンは言う。「ありきたりでないものを探してたら、自分ができることがとつぜんわかるようになるんだ。オーディションとかそういうものに行って、どうやって演技したらいいかを考えようとしたり、エージェントを見つけようとしてたりしたら、なんにしてもみんなに『ノー』って言われ続ける。うまくいくのは、こんなのはだめだってみんなが何度も言ってきたようなことだと思うよ」


このインタビューは『Backstage Magazine』12月26日号に掲載されたものです。購読はこちらから。




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*リンク先、英文です。
*本文中に出てくるNew York Timesの記事はこれのことだと思います。



これは良いインタビューですねー。俳優を目指している人たち向けの雑誌に掲載されたものですが、今までわからなかったことがかなり具体的にわかってよかった。でもなんといっても彼の仕事の探し方がすごい。もちろん色々な意味で余裕があるからできることではあるので、すべてを鵜呑みにしてマネはできないところもあるとは思いますが(その辺、本文にもきちんと書かれています)、それでもこの発想はやっぱりすごいと思う。まあなんでも誰かになんとかしてもらおうとしてるだけではだめだし、誰もやっていないやり方、つまり、今までは誰も肯定していなかったやり方を探すのはラクではないけどおもしろい、それでうまくいけば嬉しさも数割り増し、というものです。トム・スターリッジとエディ・レッドメインとの話もめちゃくちゃ可愛らしいな。パブでぐだぐだしてるところとか、遠くから眺めたかった!




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