ホモ・サピエンスの涙(Om det oändliga / About Endlessness) | CAHIER DE CHOCOLAT

ホモ・サピエンスの涙(Om det oändliga / About Endlessness)

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すべてワンシーンワンカットで撮影されているという33シーンを観ていると、駅やお店や建物の一室といった場所にいる人たちをその場所で、少し離れたところから眺めているみたいな気分になった。33の光景を眺め終えたあと、登場する人たちはある意味全員自分だと思った。誰かの日常を眺めているようでいて、自分の人生を自分の身体の外側から眺めているような奇妙な感覚になっていた。私は自分の人生が終わるということを常にどこかに感じている。いつ終わってもいいように生きようと思ってはいるものの、そんなに都合よく「やり切ったぜ!」というタイミングで終わるとも限らない。むしろあまり重大とはいえないようなことを心残りに感じながら、終わりの瞬間を迎えることになる可能性のほうが高いだろう。「明日の朝食べようと思っていたドーナツがあったのに」とか「通販で注文したものが届いてないのに」とか「あの靴まだ数回しか履いてないのに」とか。私がそうやってくだらないことを思い残しながら人生を終えても、人間というものはもちろん当たり前に存在し続ける。地球滅亡でも起きない限りは(その場合、私は生き残りになるよりもさっさと滅亡したい)。この映画の原題は、『Om det oändliga』、英語では『About Endlessness』で、「無限について」という意味になる。「人間はみんな似ている存在」で、「果てしない」ということを示しているという。まあ確かに、私たちはそれぞれ違うと思っているけれども、アリやネズミもみんなそう思っているはずだし、人間を俯瞰で見る存在がいたら、みんなおんなじようなものじゃんと思っているかもしれない。スモーキーな色合いの絵画のように美しい光景にどこか懐かしいものを感じたり、素敵な音楽に心踊らされたり、こみあげてくる笑いをこらえたりしているうちに、静かに始まった映画は静かに終わった。さまざまな人のさまざまな日常が連なる76分のように、私の日常も毎日連なっていきながら、いつか終わる。いつか終わるということは、今はあるということだ。まばゆいほどの光に照らされるところなどない映画を観た終わったあと、そこにはほのかに明るい希望が残っていた。


これを観て、この映画は絶対観たいと思った。日常は最高。