テリー・ギリアムのドン・キホーテ(The Man Who Killed Don Quixote) | CAHIER DE CHOCOLAT

テリー・ギリアムのドン・キホーテ(The Man Who Killed Don Quixote)

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予告編を観ただけでじゅうぶんおもしろそうで、かなり期待値高かったけど、それを裏切らないくらいおもしろかった。もともとはタイムスリップの話だったのが予算の都合などもあって現代の話になったようですが、私はそれで良かったのではと思いました。主人公・トビーの個人的な過去と現在(と未来)の話になることで、観る人ひとりひとりにとってもより親密な作品になっているんじゃないかと。トビーはそこそこ成功したCM監督だけれども、なんとなく常にいら立っているように、惰性で生きているように見える。現在よりも学生映画を撮っていたときトビーのほうが幸せそうなのは明らかで、まあこういうのはよくある話だけども、それをよくある話にしていないのがドン・キホーテ(になりきっている元靴職人、ハビエル)のピュアな狂気。これについても、現代が舞台のほうがずっとドン・キホーテをやってることの狂気がリアルに感じられる。それでいて夢と現実の境目があいまいな世界にしているのは、現代劇にも時代物にも見える素朴な風景と華美で壮大な狂った宴。トビーとハビエル、自然の景色と人工的な宮殿、ふたつの対になっているものを通して見えるものがある。何を信じるか、基準はどこにあるのか、何が本物なのか。ただし、疑ってばかりいるとたいせつなものを失うこともある、と。この映画がジョナサン・プライズとアダム・ドライバーで完成してよかった、と思った。ハビエル役のジョナサン・プライスの「私がキホーテを演じられる年齢になるまで、この映画を遅らせたのはテリー(・ギリアム監督)の策略だ」というコメントが素敵。そして、アダム・ドライバーのコメディの表現力はやっぱりすごい。間合いや表情、ちょっとした動きのような細やかなものから、大きくふり切ったものまで、どれもこれも絶妙に良い。まさに巡り巡ってベストなキャスティング。最後の最後までどう転ぶかわからない、まったく先が読めないこの映画(というのが、この作品の制作自体のことのようで、完成までの紆余曲折も含めてメタでひとつの作品だったのか?という気さえしてくる)、コメディではなく、ロマンチックな作品で、かつ、アドベンチャーだと監督は言っています。確かに、人生において夢を信じるというのはロマンチックなことで、夢を信じ続けるためにはアドベンチャーが必要なこともある……でもやっぱりおかしみがないとつらいから、コメディでもあってほしいな、と思う。






宮殿での狂ったパーティの豪華な衣装もすごかったけど、私にはトビーの衣装が印象的だった。ほこりっぼい現場でも、ジャケットもパンツも白っぽい色。合わせたストールとハットもホワイト系。パンツはくるぶし丈、ノーソックスでスエードローファー。日本でいうといわゆるバブリーな感じだけど、「そこそこ売れた」CM監督なので、まさにそんな感じなんだろうと。セットアップのスーツでないところもちょっとスカしたトビーの心理かな。上下白のスーツだと怖すぎますしね。インナーのシャツは薄いブルー。これはブルー以外ありえないかも。白シャツだと全身真っ白になってやりすぎ。かといって強い色をインナーに持ってくるのは迫力ありすぎ。淡い色でも、イエローでは優しすぎる、ピンクやパープルだとドレッシーすぎる、オレンジでは陽気すぎる、グレーでは暗すぎる、ベージュだとおとなしすぎる。ジャケットのアイボリーとパンツの白に合って、ポンチョをかぶっても違和感ないことを考えたら、ブルーぐらいしかない。あとはグリーン。でも自然の景色の中にいることも多いので、グリーンだと背景になじみすぎてしまう。全体的に薄い色の服はどんどん汚れて汚くなってくるのがとてもよく目立つ。それで、彼がたいへんな目にあっていることと最後には物語の始めとはぜんぜん違うところまできてしまったことが視覚的にわかるようになっている。ジャケットなんて最初はアイボリーなのに、宮殿に到着する頃には、カーキ?ブラウン?ぐらいに。あと、白い服は物語の結末を暗示していたのかなあ……?なんて思ったりもした。まあそれはさすがに考えすぎかもしれませんが。