南極料理人(Nankyokuryorinin) | CAHIER DE CHOCOLAT

南極料理人(Nankyokuryorinin)

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約1年間、8人の隊員が南極観察基地内での生活を送ることになる。平均気温マイナス54度、標高は富士山より高いおよそ3,800メートル。ペンギンやあざらしはおろか、ウイルスさえ生存できない極寒地。まったく外に出られないわけではないものの、分厚い防寒着を着込まなければならない(そうしないと死ぬ)。どうしても運動不足になりがちなので、毎日屋内でラジオ体操をする。当然電波は届いていない。テレビを録画したものを流して行なう。そのビデオテープのインデックスに書かれた文字は「月曜日」。ずっと施設内にいると何曜日だか何日だかもわからなくなるというもの。そんな日づけの感覚もない日々の中でも、ちゃんとイベントごとの食事はある。“南極料理人”西村くんの毎日の食事の工夫がすごい。食材がないからといって近所のスーパーに買いに出ることはできない。あるものは冷凍、乾燥、缶詰がほとんど。無計画に食べると困ったことにもなる。食事は限られた娯楽のひとつなのだ。隊員の中には、この生活が平気な人もいれば、つらくなる人やおかしくなってしまいそうになる人もいる。とはいえ、いやになったからといって脱走もできない(そんなことをしたら死ぬ)。ここでできることを楽しむしかない。娯楽は物理的な制約もあるから仕方がなくというところもあるけれど、原始的なほうがくり返し楽しめる。見た目や道具の工夫もだいじ。麻雀をする一角には「中国文化研究会」の垂れ幕、水割りは南極の氷で(おいしそうすぎる!)、ないものは作ってみたりもする。そうやって良い時も良くない時も一緒に過ごす隊員たちはだんだん家族みたいになっていく。そして、終わりがないかのように思われた生活にも終わる時がくる。終わったあとは、あの日々は現実だったのだろうかと感じたりもする。ある種非日常の中の日常とは、そういうものなのかもしれない。