2022年9月18日、陽が完全に落ちて夜間照明の奥に堺市臨海部の工場夜景までもがうっすらと見えるようになった18時51分頃、長い長いホイッスルが鳴った。J-Green堺S1メインフィールドのスタンド席……向かって右側、スフィーダ世田谷のサポーターから大きな歓声が上がる。両拳を突き上げる者、ハイタッチし合う者、バンザイをする者、ピッチに向かって惜しみない拍手を送る者、ハグをする者、私は……正直あまり記憶に無いのだけれど、まるで地団太を踏むかのようにして状態を低くして両足をバタバタとスタンド席のアスファルトに打ち付けた気がする。

 ――勝った、勝った、やっとセレッソに勝った! リーグ戦で勝った! 

 WEリーグ参入が決まって来年以降はカテゴリが別になることが決まっているセレッソ大阪堺レディースとのリーグ戦での対戦はこの日が最後で、この試合がこれまでの雪辱を果たすラストチャンスだった。

 

「WEに上がるセレッソと最後に闘えるチャンス! 絶対勝って終わりたいよね!」

「順位とか勝ち点では上になることがあっても、相性的に絶対悪いからカテゴリ変わるのは嬉しいですけどねw  うん、マジ、最後に勝って勝ち逃げしたいっすwww」

 

 サポーター仲間とTwitterでこんなやり取りをしたのは、セレッソのWEリーグ参入が正式に認められ発表された9月14日のこと、この試合――なでしこリーグ第18節のわずか四日前の出来事だ。

 

「明日は遂に、因縁の相手との大一番メラメラ ここを逃すと来年は借りを返す機会がなくなってしまうので尚更勝つしかない」

 Twitterでこう決意表明していたのは2015年からスフィーダのトップチームで守護女神としてゴールを守り続ける#1石野妃芽佳だ。おそらく最近スフィーダを応援し始めたサポーターにとっては、何が因縁で何が借りで、どうしてこんなにも比較的古参にあたるサポーターたちが打倒セレッソに燃えているのかもよく分からなかったかと思う。

 

 セレッソ大阪堺レディースが関西リーグからチャレンジリーグに昇格し、スフィーダと同じ土俵で戦い始めた2013年からの戦績を見て行きたい。まずはセレッソの所属カテゴリと順位、カッコ内はスフィーダの所属カテゴリと順位、その後に続くのは直接対決の有無の記載と試合結果である。

 

2013 チャレンジリーグ13位(スフィーダ:チャレンジリーグ3位)【8〇2 4〇1】

2014 チャレンジリーグ14位(スフィーダ:チャレンジリーグ6位)【1●3】

2015 チャレンジリーグWEST優勝(スフィーダ:なでしこリーグ2部4位)【直接対決なし】

2016 なでしこリーグ2部3位(スフィーダ:同2部5位)【1△1 1△1】 ※皇后杯2回戦 3〇0

2017 なでしこリーグ2部2位(スフィーダ:同2部6位)【0●5 3△3】

2018 なでしこリーグ1部10位(スフィーダ:同2部8位)【直接対決なし】

2019 なでしこリーグ2部2位(スフィーダ:同2部7位)【1●3 1●3】

2020 なでしこリーグ1部4位(スフィーダ:同2部優勝)【直接対決なし】

2021 なでしこリーグ1部3位(スフィーダ:同1部2位)【2●3 2●4】

2022 なでしこリーグ1部 (スフィーダ:同1部)  ※第17節終了時点【1●2】

 

 私の統計が間違っていなければ、リーグ戦では12戦2勝7敗3分、私がスフィーダサポになってからは一度も勝てていない相手だった。唯一の勝利が2016年の皇后杯二回戦であるが、それすら六年も前の話で当時ピッチに立っていたのは #1石野妃芽佳と #11長﨑茜(当時#17)の二人だけだ。

 2部優勝を経験した2020年、セレッソは1部に居たので直接対戦をしていない。翌年2021年は最終順位でこそセレッソより上位で終わったスフィーダだが、対戦成績は二戦二敗、優勝した伊賀には二戦一勝一分で負けていないというのにセレッソ相手にはいつも苦汁を味わっていた負の印象が強い。特に去年はアウェイJ-Green堺にて、0-1のビハインドから一度大竹麻友と竹島加奈子のゴールで一時は勝ち越した末に逆転されて負けた。今年はホームAGFフィールドにて大竹麻友の先制点で前半1-0で折り返したにもかかわらず、後半失点を重ねて1-2にて敗北した。今年こそ勝てるのでは――そんな思いが幾度もあの桜色に跳ね返されて来たのだ。

 

 スフィーダユース、ジュニアユース出身の蒼き戦士たちには、また別のこだわりがある。2016年、ユース最強世代と言われ、現在トリプルハッピーと呼ばれる#3柏原美羽 #4戸田歩 #19安田祐美乃が高二で冬の全国大会に出場した時の会場もまたこのJ-Green堺だ。

 

【2016年】

1回戦 S2フィールド10〇1(SHRINE LFC/青森)

2回戦 S5フィールド0●6(日テレ・メニーナ/東京) 

【2017年】

1回戦 S3フィールド5〇3(宝塚エルバイレLFC/兵庫)

2回戦 S2フィールド4〇2(FC十文字VENTUS/東京)

準決勝 S1フィールド0●5(浦和レッドダイヤモンズレディースユース/埼玉)

三決  S1フィールド2●3(ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18/千葉)

 

 高二の時は手が届かなかった天然芝メインフィールド――S1フィールドに、高三の時は辿り着いたものの……準決勝、三位決定戦と二敗した。当時のスフィーダユース史上最高である全国ベスト4に輝いたものの、これまでこのS1フィールドに良い印象は無かったと――柏原のお母様の口から聞いたのは今年の第四節スペランツァ大阪高槻戦にて同会場で3-0で快勝した4月10日のことだった。柏原自身も後になって「今日のS1フィールドは人生で初めて勝ちました」と教えてくれた。今回はこの会場で初めて勝てたけど、今度はこの同じ会場でセレッソ相手にも勝たなきゃね――そう強く願ったのもその時のことだ。

 

 トリプルハッピーの三人だけではない、今年新加入の#16田口茉亜紗はわずか八カ月前――高校三年生の一月、スフィーダ世田谷ユースのキャプテンとしてこのS1フィールドにピッチに立っていた。

 

【2022年】

1回戦 S4フィールド6〇0(クラブフィールズ・リンダ/北海道)

2回戦 S5フィールド3〇2(アルビレックス新潟レディースU-18/新潟)

準決勝 S1フィールド0●2(セレッソ大阪堺ガールズ/大阪)

※この年は三位決定戦が無い為、準決勝敗退でも全国三位に輝きスフィーダ史上最高成績を更新した。

 

▼2022年1月8日 スフィーダユースが全国3位に輝いた日

 
 
 
 
 
 

 田口にとってもこのS1フィールドは因縁だっただろうし、よりによってこの日の準決勝で敗北した相手はセレッソの下部組織だ。当時堺ガールズのキャプテンマークを付けていた北原朱夏もまた、現在セレッソ大阪堺レディースに在籍し(下部組織堺ガールズとの二種登録)この日はDFスタメンとして出場していた。東京で待っている同期の#26川邊汐夏と#27石川愛紘の分も、なんとか途中出場し、このS1メインフィールドでのセレッソ撃破になんとか貢献したい――ベンチでそう思っていたのではないだろうかと思う。

 だからスタメン出場の柏原と戸田は勿論のこと、安田と田口が途中交代でピッチに入って来た瞬間も私は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。アカデミーの先輩でもある柏原と交代となった田口が、交代の瞬間に柏原に頭をポンポンと撫でて貰っていた姿を翌日YouTubeのなでしこ公式チャンネルで確認した時には更に胸が熱くなったりもした。

 

 ここ最近のスフィーダしか知らないサポーターも少なくないし、過去の歴史だとかアカデミーに興味の無い層が居るのも理解している、それは人それぞれなのでどう思おうが自由だ。そんな人々にとっては、何をそんなにこだわって――と思われても仕方がないかもしれない。けれど、この日の一勝はただの一勝ではなかった、ただの勝ち点3ではなかった。自力優勝の可能性が出て来たスフィーダ世田谷FCにとって、色んな想いを抱えた多くのサポーター、親御さんたちにとって特別な一勝で特別な勝ち点3だったと思う。

 台風14号の影響で交通公共機関が大きく乱れ、選手たちにとっても大変な弾丸日帰り遠征となったこの日のことを、私はずっと忘れない。

 

 リーグ再開後3連勝、白ユニ(アウェーユニ)での無敗記録(現在9戦8勝1分)は続く。

 行こうスフィーダ、なでしこリーグ1部の頂点へ!

 

 
 
 ※おまけ
 
 試合開始前、既にWE参入が決まったセレッソのこの横断幕を見て「あの幕の下にさ、スフィーダが勝ったってスコアを刻みたいね!」って言って撮った写真なんですけど……

 
 言った通りになりました!
 みんな最高だった! カッコ良かった! ナイスゲーム!