「せ ・ た ・ が ・ や! レッツゴー! せ ・ た ・ が ・ や! レッツゴー! せ ・ た ・ が ・ や! レッツゴー!」
 
 西が丘にのゴール裏からメインスタンドにかけてのL字が一つになった気がした。時間にすれば、後半85分に #4 村上朱音がCKからのこぼれ球を押し込んで一点返した後なので、アディショナルタイムを含んでも10分は無かったと思う。それでも後ろから聞こえる声と手拍子には圧倒されたし、スタンドで傘を差して座っているサポーターたちもチームの公式ハリセンで必死に合わせてくれていたと思う。
 
 ……気がした。
 ……と思う。
 
 全ては推測で確信は無い。
 そんな余裕なんて全く無かったし、正直そんなに覚えていない。
 
けれど、今思うと……
「そこは本当になでしこリーグ2部の、しかも雨が降りしきる悪天候の中の試合会場だったんだろうか?」
「ホームとはいえ、スフィーダの試合でこんな天気悪い状態で、こんなにも多くの声と手拍子が一つに感じたことってあっただろうか?」
と、半信半疑にすらなる。
 
前髪を伝って垂れてくる雨粒も、目に入るそれも、もはや気にならなかった。
1-2のビハインド、残り五分、でも負ける気がしなかった。
スタンドも、ゴール裏も、誰も諦めていなかった。
選手たちも誰一人諦めていなかった。
 
驕りだとか、自惚れだとか言う人も居るかもしれないけれど、我々サポーターの声援と選手たちの士気が合わさってラスト五分の大きな力が生まれたようにも感じた。88分、 #16 梅津美絵のFKがキーパーの頭上を越えて、我々の目の前のゴールネットに突き刺さった。
 
――ああ、ダメだ。泣く。
いや、もう泣いてる。涙が出て来た。
泣いてる場合じゃないんだよ、声を出せ、もっと出せ、右手を振り抜け!
 
そう思いながら、腹から出す声が震えるのを感じた。
 
 
Jリーグ観戦をいきなりゴール裏のサポ自から始めたのが2010年の8月。もうすぐ8年になる。この8年間で似たような感覚を覚えた試合が今日の日を除いて3試合ある。
 
2011年4月23日「川崎フロンターレ 1-2 ベガルタ仙台(等々力)」 
震災でJリーグが中断し、再開幕戦となったあの雨の等々力。震災で友人を亡くした方も居た、チケットを取ってたけれど震災で遠征どころでなくなって宮城で待機していた方も居た。そんな沢山の想いと共に喪章を付けて臨んだ、奇跡の逆転劇。
 
2013年5月1日「ベガルタ仙台 1-2 江蘇舜天(仙スタ)」
ACLのグループステージ最終節、決勝トーナメント進出をかけて、最後まで信じて声を出し続けた時のあのバクスタの一体感は震撼させられるものがあった。
 
2015年9月6日「AC長野パルセイロ・レディース 1-2 スフィーダ世田谷(長野運動公園陸上競技場)」
この日も雨に打たれながらの戦いだった。これまで無敗だった首位パルセイロに初めて土を付けた……私のスフィーダ観戦歴では一番の試合だった。
 
 
一つ目と二つ目はスタジアムの一体感の意味で。
一つ目と三つ目は、雨の中での劇的な展開、からの勝利という意味で。
 
 今日の試合は、スフィーダの試合だったのに……実際の入場者数は583人という数字だったのに、まるでベガルタのトップを観ているかのような、1万人規模の観客数での試合だったかのように感じた。それくらいにあのラスト10分弱の西が丘の雰囲気は、言葉では表せない、独特な、特別なものだった。
 
 結局試合は2-2の引き分け。前節のエコパでの静産大ボニータ戦と同じ結果となったのだけれど、あの時は取れるはずだった勝ち点3から2点取り溢しての勝ち点1だったのに対して、今日は執念でもぎ取った勝ち点1だった。同じ勝ち点1でこうまで違うものなのかと驚かされる。実際に整列をしてスタンドとゴール裏に順番に挨拶に来た選手たちの顔立ちは、勿論悔しさも感じられたけれど、先週のエコパよりみんな良い顔をしていた。うつむいていた選手は一人も居なかったように記憶している。
 
これでリーグ戦は3勝0敗2分。
勝ち点11。
未だ無敗。
 
「2回引き分けるなら1勝1敗のが重ねる勝ち点は多い」という声もあるだろうし、私自身もそう思う。けれど、ここまで無敗で走り抜けて来たんだからこの勢いを大事に次に臨むことには大きな意味があるんじゃないかとも思う。
 
 
 
 
【補足】
失点した2点は2点ともPK
1回目は#4 村上のファウル
2回目は#6 真理子のハンド
 
どちらも後半だったし、ゴール裏からじゃ何が起こってたかなんて全然分からないけれど、「PK1回与えたのに、2回目はなかなか取らなくない? よっぽど意図的に手でシュート止めたとかじゃなければ、当たっちゃっただけとかならさ」なんて思ったりもするけれど、反対側で観ていた方が「めちゃめちゃハンドだった」ってTwitterで呟いてたらしいので、まあ仕方無いのかな。
 
#4村上は、なでしこリーグ初得点だよね??
おめでとう村上! ありがとう村上!!
直接ゆっくりお話する時間も余裕も無かったけれど、整列に来た時に「村上ナイスゴール! ありがとう!」って声掛けました。
直接村上と話が出来たサポ仲間によれば……「でもPKも与えちゃったので複雑です」と言ってたそうですが、それでも自分のミスでの失点を自分でちゃんと取り返したんだから、たいしたものだよ。
 
村上のゴール、目の前で観てたんだけど、こぼれ球が目の前に来て一瞬ビックリして躊躇したかのようにも見えた。でも、それはほんの一瞬だけで、その後ちゃんと押し込んでくれて、良かった。ありがとう、おめでとう。
 
 
雨酷かったので全然写真撮れてないです。
降り始める前に撮ったゴール裏の横断幕の写真のみ。
この日、午前中は高校総体の東京都予選決勝(修徳VS十文字)をやってたのですが、撤収していく女子高生たちがスフィーダの幕を見て「凄い……」って言ってくれてたのが嬉しかったです。