いつもありがとうございます、ひよこですヒヨコ

 

私には癌サバイバーの友人がいます。

 

国籍も住んでいる国も違う、大人になってから出来た親友です。

 

彼の国で知り合ってから14年。

 

私が日本に帰国して離れてから10年。

 

彼が癌になって寛解してからもうすぐ8年。

 

LINEで毎朝、おはよう!寝る前に、おやすみ!の画像メッセージが届きます。

 

安否確認のようなものですね(笑)

 

微笑みの国と呼ばれる彼の国は東南アジアでは比較的豊かな国ですが、それでも日本と同じ水準の医療を受けられる私立病院にかかれるのはごく一部の富裕層と民間の医療保険を使える外国人だけです。

 

社会保険を使うことのできる公立病院では、日本で当たり前に受けられる高度な医療を受けることは出来ません。救急車を呼ぶのも有料で、医療の質もお金次第の国なのです。

 

彼が体の不調を訴えるようになり、クリニックに半年ほど通ってもなかなか改善しなかったので、私は私立の病院に行くように勧めました。

 

そこで下された診断は早期の上咽頭癌。

 

治療は放射線と抗がん剤。

 

「ドクターに早期だから治療で完治すると言われた。でも治療費は300万円以上かかるって。」

 

Skypeの画面の向こうで固く結んだ口をへの字に曲げて思い詰めた顔をした彼の後ろには、不安で今にも泣きだしそうな表情の奥さんが立っていました。

 

「公立病院に行くよ。そうすれば1回の通院に100円の負担で済むんだ。」

 

私は反射的に叫びました。

 

「何を馬鹿なことを!公立病院じゃ治すのは難しいってわかってるよね?私立病院だから早期で見つけられたんだし、そのままそこで治療すれば絶対に助かるよ。お金は借りればいい。あなたなら治して仕事をすればすぐに返せるよ!」

 

それでも彼の意志は固くて公立病院に行くという考えを曲げようとはしません。

 

「日本人のあなたにはわからないよ。この国ではあんな病院に行けるのは金持ちだけだ。」

 

お金のない庶民の命がお金持ちの命の価値よりも低いことは、彼の国では当たり前のこと。

 

高い水準の医療を受けられる私立病院の高額な医療費は全額自己負担なので、ほとんどの国民にとっては無縁の場所です。

 

当時のその国の大卒の初任給が4万円弱、物価は日本の6分の1くらい。

 

日本の物価に換算すれば1,800万円くらいの価値になる治療費を、借金をしてでも払えと私は彼に言ったのです。

 

今思えばとんでもないことを迫ったなと申し訳なく思うのですが、当時は何としても彼に助かって欲しかったぐすん

 

田舎の農家に生まれた彼は小学校3年生までしか学校に行っていませんが、都会に出て働いてお金を貯め、自分で家族経営の会社を立ち上げて生計を立てていました。

 

贅沢をせず堅実に働いて商売も軌道に乗り、ローンで工場件自宅と車と土地を買い資産はあったので最悪それをすべて処分すれば何とかなるはず。

 

何より当時の彼は日本のサラリーマンと同じくらいの収入があり、その国ではかなりの高収入と言えました。仕事に復帰すれば必ず返せる金額だと私には思えたのです。

 

頑なな彼を説得すること2週間あまり。やっと彼は13人いる兄弟の中でいちばん堅実にお金を貯めていた長兄から200万円のお金を借り、残りは加入していた生命保険会社などから借金をして日本の標準治療にあたる癌の治療を私立病院で受けました。

 

それも彼が働けるようになれば返済が可能な収入だからこそできた選択で、普通のサラリーマンでは絶対に無理な話。

 

もしあのまま公立病院に行っていたら、満足な治療は受けられず完治は難しかったでしょう。

 

借金を返すのに3年近くかかったと後になって聞きましたが、寛解して8年経った今では国の経済成長とともにこちらが気後れするくらいのお金持ちになり、子どもを日本の大学に留学させ海外旅行を楽しんだりして元気に暮らしています。

 

その彼に、私は最近になって初めて悪性腫瘍の手術をしたことを話しました。

 

「うそでしょ?それに癌なのにどうして放射線も抗がん剤もやってないの?」

 

彼と話す言語は私のつたない現地語なので癌細胞とは違う胸腺腫の詳しい説明は省いてあります。

 

「うん、早期だったから手術でとりきれて治ったことになってる。」

 

そして真っ先に彼が質問してきたのは治療費のこと。

 

「でも日本には社会保険があるから、治療費は安かったんだよね?」

 

「…そうだね。」

 

「それにあなたは生命保険も入ってるでしょ?保険金も受け取れたよね?」

 

「…うん、もらった。」

 

もう、この辺りで友人に対する後ろめたさからまともな返事ができなくなってきました滝汗

 

彼には癌治療のために多額の借金を負わせたくせに、自分は僅かな治療費を負担しただけ。

 

友人が借金を背負ってまで受けた富裕層だけに許される特別な治療を、日本では月に数万円から十数万円の自己負担で普通の人が当たり前に受けることができる。

 

外国に一度でも住んだ経験のある方ならほとんどの人が理解しているのではないでしょうか?日本の医療制度がどれだけ素晴らしいものかということを。

 

日本では救急車もタダ、ドクターヘリもタダ。高い水準の医療を国民の誰もが受けられ、医療費がいくら掛かっても自己負担額は高額療養費制度で毎月上限がある。病院も自由に選べる。

 

医療費が無料という国もありますが、風邪くらいの病気では医者にかかれなかったり重い病気でも病院や医師を自由に選択することは認められていない国も多いのではないでしょうか。

 

そして私が住んだことのある国の私立病院ではドクターによってドクターフィーの値段が違っていました。

 

経験豊富で優秀なドクターにかかれば高い料金を請求され、普通レベルのドクターでよければ料金は安い。

 

要するに医師の質も患者が支払える治療費に比例するということ。

 

世界には清潔で設備の整った病院で優秀な医者から治療をうけられるのは一部のお金持ちだけの特権、という国が数多くある。

 

日本では名医と言われる医師に診察や手術をしてもらっても、研修医に毛が生えたような若手医師から受けた治療でも、医療費は同じ。

 

患者が払えるお金の金額によって診察してもらえる医師のレベルが変わるということはない、これって当たり前のようで凄いことなんですよね。

 

経済的に余裕があるとは言い難い一般庶民の私が高度な医療であるロボット手術を大学病院の偉い先生に執刀してもらい、数万円の医療費の自己負担で済む有り難い国。

 

もちろん日本人にとっても癌の治療費の負担は重いのに違いなく、地域間医療格差などまだまだ問題も多いと感じますが、それでも外国の患者さんからみれば日本は夢のような医療環境なのかもしれません。

 

日本も超高齢化社会で今のレベルの医療保障制度の維持は今後は難しそうですが、なんとかこの素晴らしいシステムが続いて欲しいと願います。

 

外国人の癌サバイバーの友人がいるからこそ、改めて感じる日本人であることのありがたみ。

 

私も親友に大きな後ろめたさを感じつつ、この国に生まれてこの国で医療を受けられることに心から感謝して、社会全体に支えられて助けられた命だということを忘れないように生きていこうと思いますクローバー