7月27日(水)から8月9日(火)まで私は山間(やまあい)の

地域で生活していました。

 

 

 

 友人が別荘を使わせてくれたのです。

山間部の集落を抜け、そこから更に奥へ入った場所にその建物はあります。

 

 

 立派でしっかりとした作りのログハウスです。

日常の生活では味わえない特別な時間を過ごすことが出来ました。

 

 

 周りはみごとに山に囲まれています。

近くには高速道路が山を貫き、民家があり、田んぼもあり、のどかな場所です。

聞こえてくるのは、清流の音と鳥の鳴き声とセミの鳴き声くらいです。

 

 

 

 いつもの自分の生活スタイルは通用しません。

あって、当然と思えるものがここにはありません。

上下水道ありません。 ガスないです。 

当然、インターネット回線ありません。

ありがたいことに電気はあります。 

掃除機と扇風機と小型のラジオがあります。

 

 

 生活しているうちに、なければなくても生きていけることを実感できます。

欲を言ったらキリはないのです。 ないものはないのです。

 

 その代わりといっては変ですが、ここの環境ならではのものが存在します。

熊、毒ヘビ、スズメバチ。 

なんとにぎやかなのでしょうか。 

 

 

 、お腹をすかせた熊は時折、人里に顔を出すようです。

山道ではよく見かける、熊出没の注意勧告のプレートですが

人の生活圏で、このプレートを見たのは初めてでした。

大きな体を維持するために食事は大切ですからね。

 

 

 毒ヘビ、ヘビは自らが生き残るために毒を持ち進化してきたのです。

すばらしい生命の力を感じます。

 

 スズメバチ、人の手が届かない高い場所に立派な巣を作ります。

その巣の模様はもはや芸術です。 

人間が作り出すことが出来ないものをスズメバチは作れるのです。

 

 ログハウスの中にいれば危険はありません。

問題は外に出る時です。

ドアを開けて、左右、上下、足元前方、キョロキョロ見渡します。

目の前の草むらに山の仲間たちがいるかもしれません。

 

 

 歩くときに毒ヘビに噛まれることを前提に長靴を買いました。

雨や雪が降っていなくても長靴は活躍してくれます。

 

 滞在中、毎日外気温は上昇し、携帯電話には熱中症アラートが届きました。

汗もかきます。 とても健康的です。 

汗をかき体温を調節できる私の身体は健全に機能しています。

 

 

 食器を洗うのと衣服の洗濯は川を利用します。

外に出るとすぐに、スズメバチが近くに飛んできます。

帽子をかぶり、首にはタオルを巻いて防御しますが、ブーンという

大きな羽音が近づくと生きた心地がしません。

ハチは私がどんな生き物なのか偵察しているのでしょうね。

 


 

 清流はふんだんな水量で流れも速いです。

周囲の山々には膨大な水が蓄えられているようです。

熊やヘビが水浴びをしていないだろうなとか、大きな桃が流れてこないかなとか

思いながら、常にキョロキョロ警戒しながら行動します。

 

 

 友人が車で周辺の施設を案内してくれました。

温泉、スーパーマーケット、図書館。 

どこの道を通り、どの方向に進むのか、必死で頭の中に入れます。

 

 温泉があるのはとても有難いことです。 翌日、さっそく行ってみました。

温泉は山をひとつ越えた場所にあります。      

ちょっと距離がありますね。  

 

 

 私の移動手段は徒歩です。 

車で走っている分には恐怖心はなかったのですが、徒歩だと恐怖心に

押しつぶされそうになります。

私を守ってくれるのはこの熊避けの鈴だけです。

 

 

 友人は鈴をガンガン鳴らして、手をたたき、歌いながら歩けばいい 

と教えてくれました。  

相手の立場になって考えてくれる、とても優しい人です。

 

 

 田んぼを越え、民家の前を通り過ぎ、くねくねとした細い山道を登ります。

歩く人も、走る車もありません。 

今日は武器となる枝も棒も持っていません。 丸腰です。 

もし、私の身に何か起こったら…。  

この場所を歩いている自分が悪いのでしょうね。

自己責任だよな…。 

 

 

 振り返ってみれば、それなりに愉快な人生だったな。 

この先の仕事や資格取得の予定も入っているけど…。

まぁいいか…  よくないか…。

 

 

 小一時間ほど歩き、私は無事に温泉に着くことが出来ました。

 

 

 

 石船温泉 : アルカリ性単純温泉、無色透明においもありません。

        適応症 神経痛、関節痛、筋肉痛、冷え性など 

 

 

 内風呂と露天風呂があります。

露天風呂の湯船は石を積み上げて作られています。 

かわいいカエルくんがいる温泉です。 

 

 

 温泉の中で肌に触れると、滑らかにすべることはなくキュッと抵抗を

感じます。 今までに体験したことのないやわらかな温泉でした。 

 

 

 火曜日と年末年始は定休日です。

露天風呂は奇数日は男性、偶数日は女性が利用できます。

 

 食事も出来ます。

メニューの中から野菜炒め定食を選びました。

 

 

 汁物はうどん・そば 温かいものか冷たいものを選べます。

「おいしいな、命がけでここまで来たかいがあったぞ」

 

 滞在中、この温泉には何度もお世話になりました。

ただ、通う道は山の中の危険そうな最短距離の道は避けて、2時間ほど歩く

事になりますが、走る車となるべく遭遇する安全そうな県道の峠道にしました。

 

 

 温泉で働く年配の女性は、私が肌身離さず身に付けている熊避けの鈴の音を

「いい音ですね」と褒めてくれました。 

 

 

 地元の人たちは鈴を付けていません。(主に移動は車でしょうから)

散歩中の犬は私を不審がり、二度見、三度見します。

熊と出会ってからでは遅いのです。 鈴は必要なのです。 

 

 

 とんかつ定食です。

安全に健康でごちそうを食べられることほど幸せなことはないように思います。

「とんかつっておいしいなぁ、値段は高めだけどおいしいなぁ」

 

 

 途中の川で鮎釣りの方を見かけました。

おとりの鮎を使って釣る「友釣り」の仕掛けではないようでした。

仕掛けを見せてもらいました。 

 

 

 ただ釣り針がついているだけの単純な仕掛けで鮎をひっかけて釣るのだそうです。

 

 

 釣り人が使っている自分の偏光サングラスを外して、私に見せてくれました。

偏光サングラスで見ると、水の中までくっきりと見えます。

鮎が泳ぐ姿も確認出来ました。 

 

 

 仕掛けの上を鮎が通過するのをじっと待つだけです。

水面下の鮎を上から見てタイミングを計り、釣り竿をサッとあげます。

こういう釣り方が出来るほど、この川には鮎がいるということなのでしょうね。

 

 

 聞こえてくるのは清流の音と川で子供たちがはしゃぐ声、そして

セミの鳴き声と鳥のさえずり。

 

 

 電線には今年生まれたツバメがまだ生え揃わない翼で飛ぶ練習をしています。

 

 

 田んぼでは稲が実り始めて、その上をトンボが群れて飛んでいます。

 

 

 

 せせらぎには蛍が幼虫時代に食べるカワニナがいて、ハヤのような魚やドジョウが

います。 

 

 

 ここはいいところですね。

 

 

 車で走れば、海はすぐそこにあります。

遠浅のきれいな砂浜がありました。  

 

 

 澄んだ海水の中ではフグの子供や枯れ葉のように見えるツマジロオコゼ

の幼魚がいました。 実際に見たのは初めてです。

海草が茂っている場所でもない砂の上に、幼魚たちがいるのですね。

 

 

 

 ここはいいところですね。

 

 

 友人が車を走らせて、名所を案内してくれました。

ひまわりの畑、瑠璃光寺、船平山、島根県津和野の太皷谷稲成神社。

 

 

    (ひょっこりはん?)

 

  (私を守ってくれた帽子とタオル)

 

  (熊避けの鈴を付けていたバッグ)

 

       (いつ見ても美しい 瑠璃光寺 五重塔)

 

(大内の殿様にまたここに来ることが出来ますようにと祈願した)

 

                             (島根県津和野 太皷谷稲成神社)

 

                         (島根県津和野の町 太皷谷稲成神社より) 

 

             (船平山よりの眺望)

 

 山々に囲まれた場所に水田があり、川が流れ、ところどころに民家がある。

桃源郷というものがあるとしたら、こういう所にあるのかもしれないなぁ

と思えてきます。 

本当に何処かにあるのだろうか、ないのかな、あるのかな、ないのかな。

 

              (船平山にて)

 

 滞在中の楽しみはFMラジオでした。 

ログハウスにいる時はほとんど、ずっと聞いていました。

ラジオ体操、天気予報、人生相談、定時のニュース、歌謡番組、プロ野球中継。

ヤクルトスワローズのつば九郎くんが史上1羽目の2000試合出場達成イベントが

行われた8月5日の巨人戦は面白かったなぁ。

9回裏でヤクルトが大逆転するのではないかと思いました。

 

 

 普段、自分が生活している場所を離れると物事は何もかもが新鮮になります。

些細なことでも、貴重な発見になります。

 

 

 中国自動車道を走行中、野生の猿の家族と出会いました。

子供を連れて道路を横切ろうとしていました。

親は大口を開けて、何か叫びながら、眼は移動する車を凝視したままです。

私とずっと眼が合ったままです。

必死に子供を守ろうとしていました。

こんな懸命に生きている相手の邪魔だけはしてはいけないと瞬時に頭に浮かびます。

 

 ログハウスから外に出た時にシマヘビがいました。

毒ヘビではない分、こちらは冷静になれます。

ヘビと眼が合いました。 

その時に思った事が自分でも不思議なことでした。

「まん丸い眼で意外にかわいい顔をしているなぁ」と思えました。

とてもハンサムなヘビに見えました。(性別は分かりませんけど)

ヘビに対して、こんな気持ちになったことは今までありませんでした。

 

 なぜでしょうか。

ログハウスの中にこんな置物が飾られていて、それを毎日見ていたからでしょうか。

 

 

 

 人をはじめ、この地球に存在する生物はみな同じ命を持って生きています。

本来は同じ自然の摂理の中で生きていたはずなのですが、人はちょっとばかりの

賢さがあったせいで文明というものを築き、人とその他の生きものみたいに

分け隔てた考えで生きるようになっているのではないでしょうか。

 

 

 人は傲慢になり過ぎているのではないのか。

 

 

 猿に道を譲り、ヘビにも道を譲る。

熊とはなるべく出会わないように、人が気を付けて行動する。

懸命に生きている者の進路を妨害したり、動物だからとか

弱い相手だからとか一切関係がなく、相手の未来の夢や希望を

踏みつぶしてはならないのです。

これは人同士でもいえることなのです。

 

 

 もっと謙虚さを持って生きるべきではないのか。 

 

 

 きれい事なのだろうなぁ、現実的な話しではないのだろうなぁ

と思う一面もありますが、ログハウスでの生活は

私にこんな思いをもたらしたのでした。

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。