誰にでも好きな映画はあると思います。
もちろん私にもあるわけで、特別に好きな映画はDVDを買い揃えています。
仕事で疲れ果てた時や、なにか今を忘れて現実から離れて疑似体験したいという
気持ちがわくと家で映画を見ます。
今回は私を支えてくれる< 私にとっての名作映画 >を紹介したいと思います。
つい先日、見た映画があります。
周 星馳(チャウ・シンチー)さん 監督・主演の名作「少林サッカー」です。
2002年 日本で公開されました。
当時香港映画として歴代最高の興行収入を記録した大ヒット映画です。
日本でも興行収入30億円を達成して2002年の歴代8位という記録を打ち立てています。
馬鹿げているとか子供向けの映画じゃないかと思う方がいるかもしれません。
私は年齢的には十分くらいな< いいオッサン >です。
でも、この映画の根底にあるメッセージにとても共感できるのです。
少林拳を学んだ6人の兄弟弟子がいます。
学んでいた師匠が他界するその時の言葉は「少林拳を世に広めよ」と言い残しました。
6人は師匠の言いつけを実行したいと思いながら日々の生活に流されていきます。
彼らはみな 辛い修行に耐えて武術を修めた強者なのですが、それは実生活の中で仕事
に結び付けられなかったのです。
貧しい暮らしを余儀なくされています。
かつて輝いた サッカーのスター選手(ファン)がいました。
類まれな実力を持っています。
確実に相手チームのゴールを奪う右足を持っていて、黄金の右脚と言われていたほどです。
しかし、お金に目がくらみ、八百長試合をしてしまいます。
その結果に怒り狂った観客たちに彼の足は再起不能になるまで痛めつけられます。
そして選手生命を失います。
通りの一角にある小さなお店でまんじゅうを作る少女(ムイ)がいます。
けっして美人とは言えないのですが、こころは澄んだ気持ちのやさしい子です。
太極拳をたしなみ、その技のひとつでもあるかのようにまんじゅうをみごとに作ります。
小麦粉に水を足して生地を練っていく手さばきは、これぞ太極拳という感じで目をくぎづけにします。
メインの登場人物はこれらの人たちです。
けれども、この映画は主人公がひとりだけ引き立っているというものではありません。
映画に出てくる人たちすべてが主人公のように思えます。
悪者役のチームの人たちは純粋に悪者かもしれませんが・・。
いや、いつしか善のこころが宿るかもしれませんから一概には言えませんね。
映画の冒頭近くに大きな百貨店の前を歩くセクシーな女性もそうだし、まんじゅう屋の
まえにいる通りすがりの人たちも皆主人公ばりの作品のテーマを背負っています。
この映画のテーマは< 自分自身に誇りを持って、夢をかなえよう > です。
誰もが皆 夢を持っています。(持っていたはずです)
でも、時間が経過すると同時に、抱いていた夢もいつしか儚いものになっていくのが常で
す。
当然ですよね。
夢を抱いていても、それを食べる事は出来ません。
夢があるだけでは、生きていけないのです。
食べ物を得るにも、服を着るにも、靴を履くにもすべてお金が必要です。
多くの人が自分の夢に埋もれていく中、ひたすら自分の夢を追いかけている青年がいます。
シンです。
着ている服はおそまつで、靴も穴が開きボロボロです。
しかし、少林拳で鍛えぬいた肉体と生まれ持った異常ともいえる強靭な足を
持っています。
どんな貧しい暮らしを続けていても、師匠の夢を実現しようと懸命に「少林拳」を世の中に広めようと懸命にアピールし続けています。
ある日、この登場人物たちが出会うのです。
そして、予期しない新しいエネルギーを生み出し昇華させるわけです。
まんじゅう屋の前で皆がダンスに興じるシーンは圧巻です。
一人の情熱がそれを見る者を感化し、いつしか通りにいた人たちが皆、自分の夢を思い出
し熱く踊ります。
人の持つエネルギーが他の人と接することで、さらに大きなエネルギーを生み出すという
ことの具現化です。
演出としては見る人の瞳に炎が浮かぶという愚直なほどわかりやすいものですが、これは
どんな小さな子供が見てもわかりやすいように考えた結果ではないかと思っています。
一生懸命に生きている人を目にすると、心が熱く揺さぶられます。
その感覚は自分の忘れかけていた熱い魂に炎を呼び起こし目覚めさせるのです。
文字で書くとこんなことなのでしょうが、これをそのまま映像化した感じです。
コミカルに描いているので、ややもすると笑って通り過ぎてしまうシーンですが
私はこのシーンが一番好きです。
この映画の根底が描かれていると思います。
今まで気が付かなかったのですが、このシーンの冒頭で急に大声で歌いだすシンの歌声に
驚いて気をとられる男性の通行人がいます。
よくみていると、よそ見をしていたせいで道路の段差につまづいて街路樹に頭をぶつけて
いました。
この映画で初めて笑ったのがこの瞬間でした。
きめの細かい演出をしていますよね。
ひょっとして、こういうちょっとした演出は撮影現場で突然生まれたということも考えら
れます。
きっと、和気あいあいとした にぎやかな撮影現場だったのではないかと想像するのですが
実際はどうだったのでしょうね。
映画の内容にこれ以上の事は触れません。
ここまでに登場したキャストたちは、生まれ変わったかのように、または かつての自分を
取り戻したかのように自信にあふれて生き生きとしていきます。
ちょっとした刺激が人を大きく変えたのです。
このことは世の中全般に言えることだと思います。
誰にでもあてはまると思います。
ちょっとしたきっかけがあれば人は変わります。
大きく羽ばたきはじめます。
それは、子供でも、大人でも男性でも女性でも年をとっていても みな一緒です。
本来、人間が持ち合わせている可能性です。
いつまでも夢を持って生きていきたい。
よし、また やってみよう。
ちょっとがんばってみるかな?
自分の得意分野だものな。
そう思ったらきっと現実になりますよね。
それを可能にするのは自分以外の何者でもありません。
夢の実現はずっと先になってもいいじゃないですか。
少しずつ近づけられればいいじゃないですか。
万が一、結果として果たせなくてもいいじゃないですか。
自分が懸命にがんばったんだからいいじゃないですか。
見る人をそんな気持ちにさせてくれる素晴らしい映画です。
チャウ・シンチーさんは監督としてのコメントでこんなことを言っています。
「作品のテーマを選ぶ時にそれが斬新かどうか考える 前人未到なものが面白いと思う」
「それでカンフーとサッカーを組み合わせた」
確かに意表をつく 面白い組み合わせです。
武術とサッカーのコンビネーションは目新しさがあります。
そして、作品のストーリーの根底にはベーシックな映画に共通する見る人を惹きつける
普遍的な要素がちりばめられています。
人間の精神的な成長や努力の先にある栄光、自分自身の誇りなどです。
多くの方が見たことのある映画だと思います。
もし、見る機会があったら、また見直してみてはいかがでしょうか。
きっと、胸の片隅で眠っている、熱いものが鼓動を始めますよ!