映画『海炭市叙景』、観てきました! | ちょこボラ!しよう

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陰鬱な北国の冬。
身も心も滅入りそうな灰色の街。
映画『海炭市叙景』は、
そんな「わびしさ」「むなしさ」に包まれた架空の都市で展開されます。

全編をつうじて、太陽のあたたかさを感じられるシーンはいっさいなし。
冒頭で登場する元旦の日の出のシーンさえ、どこかしら寒々しく感じられます。
この作品は最初から最後まで、
これでもかというくらい「凍てついている」のです。

しかし、にもかかわらず、なんだろう、このなつかしいかんじ。
私は北国の生まれではないけれど、
この凍てついた作品になつかしいぬくもりを感じずにはいられません。
どんよりと曇った空、重く冷たい空気に、
やるせなくも落ち着きを感じてしまう。
日本の気候風土と何かしら関係があるのでしょうか?

展開される物語もたいへんに陰鬱です。

仕事を解雇されて絶望する兄妹。
宅地開発のなかで立ち退きを迫られる老婆。
冷えきった家庭で一人孤独に悩むプラネタリウムの職員。
仕事も家庭もうまくいかず暴力的にふるまう若社長。
寂れゆく故郷にも自分の人生にも希望を見いだせずにいる若い男。

みな悩み絶望し、思い通りにいかない人生を抱え、往生しているばかり。
「きっといいこともあるさ」という救いもいっさいみられません。
ここまで救いがない映画というのもめずらしい。
あまりの救いのなさに
「クラくてやだなあ。こういうのは好きじゃないよ」
と目を背けたい感想をもつ人も少なくないかもしれません。

でも。

この映画には、そんな救いのない現実をていねいに掬いとり、
突き放すことなく見守る「視線」を感じます。
絶望しているか否かにかかわらず、
いっしょうけんめいに生きよう、生きていきたいと願っている人ならば必ず共感を抱くであろう、
「それでも人は生きていくのだ」というメッセージを受け取ることができます。
そう、はかなげに見える物語の奥には、
「そうやって生きていく君が、たしかにここにいるではないか」
というはげましのようなものが感じられるのです。

救いがないシーンやエピソードばかりなのに、
なぜそんなはげましが感じられるのか?

それはおそらく、この作品にやどっている「リアリティ」です。
『海炭市叙景』は、作品の舞台のモデルとなった街・函館の市民たちの協力なくしてはあり得なかった映画だといいます。エキストラとして数多くの市民が参加しているだけでなく、プロの役者たちにまじって素人の人も重要な役を演じています。素人役者さんのなかには、「え? 本当に素人なの?」という存在感を放っている人もいる。「この映画だけのために役者になった役者さん」が何人かいるのです。これは、考えてみればたいへんにぜいたく、きわめて新鮮な現象ではないでしょうか。

素人が参加すれば作品の質が落ちるのではないか、と思うかもしれませんが、
この作品ではむしろ函館市民の参加によって、
ノンフィクションのようなリアリティが生み出されています。
そのリアリティが、作品にあたたかい魂を吹き込んでいるのです。

リアリティを与えているのは素人の役者さんの存在だけではありません。
市内を走る古めかしい市電、寂れたプラネタリウム、
決して美人とはいえないスナックの女の人たち、
飾り気も素っ気もないプロパンガス事務所、
小さなブラウン管テレビとこたつが置かれた雑然とした室内。
スクリーンに映しだされるこれでもかというほどの匂いたつ生活臭が、
この救いのない物語に力強さを与えているのです。

作品では谷村美月、小林薫、南果歩、加瀬亮、村上淳など有名な役者さんが出演していますが、
彼らも、地元の人みたいになっています。いい意味で存在感を消しています。
おそらく、こういう映画で芝居を演じるのはもっともむずかしいはず。
ヘンに目立てば、作品の流れをこわしてしまう。
さりとて印象に残らなければ役者としての意味がない。
本物の役者さんというのは、こういう映画でこそ才能を発揮するものなのかもしれません。

泣いて笑って多いに感動したい。
映画にそういうものを求める人にはおすすめできませんが、
これはおそらく、世界に通用するすばらしい映画です。
DVDではなく、映画館に足を運んで見るべき映画です。
観賞後の余韻をだいじにしたい映画です。
こういう映画をつくってくれた製作者のみなさん、
そして函館市民のみなさんに心からありがとうを言いたいです。

……でも、ひとつだけ、ごめんなさい。
映画もすばらしかったけれど、
ごめんなさい、作品の「原作」にはかないませんでした。

佐藤泰志が書いた小説『海炭市叙景』。
たぶん、ここ十数年のなかで、個人的にはベストワンです。
次回は、小説『海炭市叙景』の話をしたいと思います。