2月のその日、夫は旅立ちました。



私は帰宅し、息子達に面会時にあった事を話しました。

私なりに少しは役に立てたような気がしていたので、少し充実感もありました。



その日の夜、深夜。

私の携帯が鳴りました。私は深夜の電話、携帯は不吉な事しかないのを知っていました。

(夫が倒れてから、昼間の電話も全て恐ろしく感じていて、今でも電話の音に警戒してしまいます。)


夫の入院している病院の名前が表示されていました。

何か急変して、救命の措置が必要なんだろうか?



看護師「夫さんの呼吸が少しおかしいようなので、今から病院に来てもらえますか?」

看護師の話し口調は落ち着いていて、危ないという切迫詰まった感じではまりませんでした。

しかし、それは家族が動揺しすぎて、事故が起きないようにという配慮だと思います。


危険な事でなかったら深夜の二時に電話してくるはずがないので。

寝ていた息子達を起こして三人で病院に向かいました。


大丈夫、大丈夫。事故しないように、しっかりする!
運転出来るのは私しかいないんだから、私がしっかりしないといけない。


そう自分に言い聞かせても、足はガタガタと震えていました。手も痺れていたように思います。


変な事を考えているのは分かってはいたけど…こんな時には、夫に傍にいて欲しい。助けて欲しい。


いまだに私は夫に頼っている、馬鹿な人間だ。
でも助けて欲しい。
夫さん、夫さん…怖いよ。


どうしよう。私はどうしたらいいんだろう。


長男はずっと私に声を掛けてくれていました。

夫が倒れたと連絡がきて二人でタクシーで向かったあの日と同じ感じでした。


病院に着き夫の部屋へ向かうと、

看護師「今、救命措置をしていますので、しばらくお待ち下さい」


私達三人は待合室へ。どの位の時間が過ぎたのかは記憶がありませんが、長く感じました。


看護師「お部屋へどうぞ」


医師と看護師がいて、心臓マッサージをしていました。



息子達「お父さん、お父さん」

私「夫さん、帰ってきて!お願い、帰ってきてよ」

医師「…もう〇分以上(記憶が曖昧で)マッサージしていて、それでも心臓は動きません。もし今、奇跡的に動いたとしても、肺にかなりのダメージが…中止してもいいでしょうか?」



夫は延命を希望していなかった。



了承しました。





空っぽになりました。

彼はいつも突然、私を驚かす。



昼間の浮腫は代謝の機能が落ちてきていた兆候だったんだ…。
 


うちのお婆ちゃんが亡くなる前もそんなこと聞いたな…。30年以上前のこと。近所のかかり付けの内科で受診したら「浮腫が出ている。…死相が出ているから総合病院に行った方が万が一に備えられる。」

その3日後に祖母は亡くなった。


そうか、その浮腫だったんだ…。




空っぽな頭で色々考えてました。連絡しないといけない人がたくさんいるわ…とか。


医師が延命を終え、去った後に


看護師「見回りにきた時には既に呼吸がありませんでした。それから医師を呼んで、すぐに措置を始めたんですが…」



心臓が止まってしまったんだね。



片方の目だけ薄っらと空けて窓の方を見ていた。

誰かがお迎えに来たのかもしれない。

表情から…楽になったのだろうと思いました。


お疲れ様、本当にお疲れ様。

夫さん、よく頑張ったね。

最後までよく頑張ったんだね。