あら、こんにちは


ああ、珍しい場所で会ったね


バッタリ会ったのは、
ぶっきらぼうで、短気で、一匹狼なくせに

美人にだけはめっぽう甘いことで有名(笑)なO氏。

手には、一輪の花を持っている。

 

彼は外国政府の高級官僚の出身で

定年後、外交員としての駐在経験のある日本に来て

静かな老後生活を送っている人だ。

 

プライベートな質問を嫌う方なので

それではごきげんよう、と通り過ぎようと思っていたら

 

今急いでるの?少し時間あるかい?

ちょっと付き合ってもらえるだろうか。


ええ、大丈夫ですよ



今日は暖かいですねなんて、何気ない会話をしつつ

数分歩いて着いた場所は街中にひっそりと立つ寺院。

こっちだよ、と案内されたのは、奥様のお墓だった。


家内は君のことをすごく好きだったんだよ


私も、奥様のこと、大好きでしたよ


静かに眠る奥様に、そっと祈りを捧げて帰った。


-------------------------


先日奥様のお墓参りへ向かう途中のO氏に

バッタリお会いして一緒にお参りさせていただきました


O氏と親しい仲の上司にそう報告すると

上司からは意外な言葉が返ってきた。


彼はね、2年半前に奥さんを亡くしてから

毎日歩いてお墓に行ってるんだよ。

花好きな奥さんのために、毎日花を持ってね。


これはすごく意外だった。


お酒の席ではいつも若い女性の近くに座り

セクハラまがいの発言も多々あり

郵便局も銀行も、窓口に美人がいないと用も済ませず帰る(笑)

そんな天下無敵の女好きで知られる(笑)O氏が、


毎日一輪の花を手にお墓に足を運び、

奥様に祈りを捧げているというのだ。


奥様亡き後も、O氏の女好きっぷりは変わらないけれど

心の奥は、亡き奥様の姿でいっぱいなのだろう。


もしかしたら生前から愛妻家だったのかもしれない。

誰に知らせる必要もなく、

ただ自分の中でだけ、奥様を愛しぬいてきたのだろう。


奥様は、O氏の奥にある本当の優しさに触れることができる

唯一の人だったのかもしれない。


-------------------------

O氏が日々通っている奥様の墓石には

和やかに微笑む奥様の顔写真が、埋め込まれている。