今も貴方は暗い井戸の底で僕が助けに行くのを待っているのだろう…。
分かっているよ、貴方には僕が必要だからね。
間もなく迎えに行くよ…あぁ天使。
著:ちょちょい前田
『高森くん』
4.試練こそ究極の愛の糧
『高森くん』
4.試練こそ究極の愛の糧
しおりちゃんが彼氏ぶった悪魔に攫われてから3日…学校にはその美しい姿を現す事が無かった。担任は『体調不良』と建前を作り隠しているが僕は気づいている。絶対にあの悪魔が天使を幽閉しているからだ、絶対そうだ、そうに違い無い。
これは神が僕に与えた試練だ、『天使を取り戻してみよ、さすれば汝には絶頂の幸福をもたらしてやろう』と。
分かっている…分かっているがあの悪魔の住処も分からないのでは手の打ちようが無い。一体あいつが何者なのか…今の全く何の情報も無い状態で動いてもどうにもならない。しかし時間が経てば経つほど天使の命が危機に陥る…どうすればいいんだろう?
そうか!
僕は学校が終わるなりすぐさま家に帰って部屋の中を漁った。
「たしかここにあるはずなんだ!」そう確信を込めてある探し物をしたのだ。
「あった!OH神よ!」僕は見つけ出した、冒険に出るために必要な伝説の地図を!そう!クラス替えがあるたびに渡されるクラスメイトの住所が書いてあるプリントを!
ここに…しおりちゃんの家の住所があるではないか!
だがここで問題だ、家にはお父上とお母上がいる…なんせまだ天使とは愛の契りを交わし合うような間柄では無いから今ご両親にお会いさせて頂くのは忍びない。あの天使を産み落とした方々だ、大層品がおありでお美しいに違いない。このようなただの下民がお伺いをして良い家などでは決してない!
しかし!時は一刻を争うのだ!悪魔が天使を攫ったままなのであればきっとあれからお帰りになっていないはず!ご両親も不安で不安で仕方ないに決まっている!学校に行方不明と言えないのはこの問題が大きくなると大いなる神界に話が伝わりこの星全ての大問題になってしまうからだ!だから待っている…天使をひそかに救い出す戦士を!逆に考えればそんなご両親にお会いしてよろしいと神がご判断したという事だ!
いけ綸太郎!今こそお前が天使を救う時だ!
僕は持てる勇気を振り絞りしおりちゃんの家の前に立った。
大きくは無いが白い外壁でお城を連想させるような正に天使が住むにふさわしい家だった。
「さすが天使の一族。よし…」
家のインターフォンを押そうとした時思い出したように僕はスーッと息を吸った。「真シオリーヌ呼吸」だった…天使がいなくてもそのご両親を目の前にするのだ、この呼吸法を常時意識しなければ失礼というもの。
「スーハー、スーハー…。」幾度かの呼吸を終えインターフォンを押そうと覚悟を決めた時後ろから声が掛かった。
「どなたですか?」
その声に反応し振り向くと僕はうっ…とその眩しさに目を奪われて意識を失いそうになった。
『後光!』
そこに立っていたのは天使のお母様だった、やはり天使の親も天使…背中から何か光のようなものを感じさせるその美しさには敬意を持って接しなければならないという事を一瞬にして悟らせるには十分過ぎて、更には母親らしいその暖かみや優しさも相まって僕の全神経を硬直させた。
『総合的な美しさでは天使よりも上か…。』そう捉えながらもまた僕は息をしていない事に気がついた。
そう、しおりちゃんよりも上の美しさ、そしてその中に現れる暖かみや優しさに対しては『僕でありながら一部分しおりちゃん』というしおりちゃんオンリーに作られた「真シオリーヌ呼吸」など何の意味もなく瞬く間に僕の意識は消えかけたのだ。
ヤバい…なんとかしなければ…そう考えながら僕はまた新しい呼吸法を模索した。幾度かの窒息の危機を乗り越えて来た僕の頭の中の「シオリーヌ呼吸精製部分」は己の生命維持の保持方法をギリギリの極限で編み出して来たため、今回も一つの回答を導き出した。
「族シオリーヌ呼吸」…それは今までしおりちゃんだけにしか対応出来なかった呼吸法をその家族も受け入れてしまい、まるでもう自分がその家族に入っている感覚で息を吸い込むという呼吸法である。
それをする事であたかも今この場に自分がいる事が正しいかのような感覚を持つ事が出来るのだ。
「お母様…。」いつもは緊張してしまう僕がしおりちゃんのお母様を目の前にしてその言葉が言えたのはむしろ自然の流れとしては当然だと認識した。
「お…お母様?」
さすがに初対面でそう呼ばれてしまったのだ、お母様が動揺を隠せないのは仕方ない。大丈夫、僕が今全てを説明致しますから。
「族シオリーヌ呼吸」によっていつもの自分では無い自分が出来上がった事に僕自身驚いていたがそんな事はどうでもよかった。早くお母様に天使の危機を知らせなければならない、それだけが僕の頭の中で働いていたのだ。
「そうですお母様、私、天使…いやしおり様の恋び…いやクラスメイトの高森綸太郎と申します…実は本日そのしおり様の重大な危機についてお話があり…。」
「高森じゃねぇか!やっぱり本当にお前が原因だったのか?」
お母様に対し話を始めた瞬間聞き覚えのある太い男の声で邪魔が入った。僕を知っている?原因?なんだ…しかし僕はこの声を知っている。この声は毎日聞いているもの。たしか今日もさっきまで…。
声のする方を見るとそこに立っていたのは担任だった。若くてイケメンでいかにも俺は格好良いだろオーラが出ていて確実に僕とは住む世界が違うような…。
担任はまるで驚いた顔をしていたがその瞳の奥には軽蔑の念が籠っているのに気づいた。
「な…なんで先生がここに?」
「はぁ…なんでも何も池田が3日前からずっと休んでいる原因が実は高森がこの前バイト先でケーキを買って来た事でそれからお前が怖く無かったからだってさっき電話で説明されてよ。だから今からお伺いさせて頂く所だったんだ。池田の顔も見たいしよ。そしたらお前がいるからよ、本当にそうだったんだな。」
「何!今家にしおりちゃんがいるのか!」
「そこじゃねぇだろ。」
「先生この子です。家まで来るなんて…しかもさっきお母様なんていきなり呼び出して…ちょっとどうにかしてください。」
「分かりました、おい高森行くぞ。」
「ちょちょちょ!ちょっと待ってください!」
「問答無用!」
そう言われて僕は担任に腕を引っ張られてそのまま学校へと連行されるのだった。
しかし僕は安堵していた。
良かった…とりあえず天使は家にいるんだね、悪魔の住処に囚われているわけでは無いんだ。いいんだよ、ご両親と共にいれるならそれで…。お母様もきっと僕が今しおりちゃんと接触をしたら悪魔がどこかで見ていると判断して引き離したんだね、ありがとうございます。
でもこれでお母様にも顔を覚えて頂けたし、愛の契りを交わす第一歩を踏んだんだ。
あとは悪魔の存在をどうにかする…それだけだ。
待っていてねしおりちゃん、君が安心して外に出れるように僕がなんとかしてあげるから…。
つづく
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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