ハートビートドラム | ☆空飛ぶ もとちくれった 出張所☆

ハートビートドラム

母さんは言った。
「たとえ不可能だと思うことでも、それに対する感謝の言葉は
 息をするのと同じくらい自然に出てくるようにしなさい。
 気持ちだけでもありがたいと思うことが大切なのよ」

うそだ。
言っている人も、そう答える人もそれが嘘だってことはわかっているんだ。
なのに何故母さんはそんなことを言うんだろう。

「ぼくが大統領になれるよって言われたら、喜ばなきゃいけないってこと?」

「喜ばなきゃいけない、と思うのは間違いよ。それは喜びなの」

母さんはうそつきだ。
母さんや父さんとしゃべるたびに僕の中には「どうして?」「何故?」
たくさんのわからないことが増えてゆく。
ぼくはバカだ。普通の人がわかることが何ひとつわからない。

「わからないことは聞きなさい」


母さんはいつもそう言うけれど、僕がたくさんの質問をすると終いには必ず怒り出す。

「あなたって子はどうしてそうなの」

そんなこと言われても困る。どうしてそうなの。
どうしてそうなの、ってどういう意味だろう。どうしてそうなの?
わからない。僕はどうしてそうなんだろう?

わからない。わからない。
百科事典にも載っていなかったし、インターネットで調べたけれどわからない。

タク タク タク タク タク タク タク タク タク タク

僕は僕だ。
僕は僕をコントロールしている。
僕は僕のもので、誰のものでもない。僕の主人は僕だ。
なのに、僕の体の中のものを僕はコントロールできない。
僕の体はすみからすみまで全部僕のものなのに、鼓動は止めようと思っても思うだけじゃ止まらない。
何かをしないといけない。
どうして僕は僕のもので、僕は主人なのに意思の力だけで止めることができないんだろう。

タク タク タク タク タク タク タク タク タク

鼓動は聞くことも出来るし、感じることも出来る。
僕の真実だ。
鼓動を感じているとだんだんゆっくりと体が重たくなって僕はやっと僕になる。
夜ベッドに入って鼓動を数える。

タク タク タク タク タク タク タク タク タク

少しずつ気持ちが、広いどこまでも続くカラっとしたやわらかい日差しの草原にいるみたいになる。
ギラギラしている僕の目が眠くなって、まぶたが重たくなってくる。

タク タク タク タク タク タク タク タク タク

聖書には女の人が産みの苦しみを味わうのは、イヴが禁を破りリンゴを食べたせいだって書いてあった。
どうしてイヴの罪を未来永劫女の人が全員で分かち合わなきゃいけないんだ?
イヴはイヴだ。イヴの犯した罪はイヴが償えばいいじゃないか。
うそばっかりだ。
そうだ。きっと世の中はうそで出来ているんだ。
でも誰にも教えたりしない。
きっとまた母さんも父さんも怒り出すに決まっている。
そうしてまた

「どうしてこの子は姉さんみたいじゃないんだろう」

そう言って哀しい顔をする。
僕は悲しい顔を見るのが嫌いだ。
生きているものが食べるため以外に争っているのを見ると気持ちが悪くなる。

「じゃあアンタは皮の靴をはかないわけ?」

姉さんはフフンと笑って言う。
僕だって皮の靴くらい履く。皮のかばんだって持ってる。
でももののためじゃなくて支配するためには闘わない。

「フン。あんたって本当に世間知らずのボクちゃんね。それならアンタは裸で藁の家にでも住みなさい」

姉さんはニヤニヤしながら言う。

タク タク タク タク タク タク タクタクタクタク…

僕だって世界のことを少しは知っている。
威張っている人や教える人は、わからないことには答えてくれない。
本当のことは誰も教えてくれない。
世界はピラミッドで出来ている。
わからないことをしつこく聞くと怒られる。
世界は嘘で出来ている。

タク タク タク タク タク タク タク タク タク タク…

僕は今日も僕の鼓動を聞いている。



2008年6月12日(木)AM:11:02に上げた記事です。

イメージはアメリカの南部の州あたり、時代は60年代で、貧しい家族。
そんな感じ。