Vol.6 ユウ | ●○Moscow mule○●

Vol.6 ユウ

ユウは、大学と私の家の真ん中くらいにある公園に来るように言った。



私は、自転車に乗るときや一人で歩くとき、必ず音楽を聞くから、iPodを探す。
こんなときになかなか見当たらなくて。見つかると、急いで自転車をこいだ。
公園に着くと、公園の前にはユウのバイクが置いてあって、ユウは一人でブランコに乗っていた。


「ごめんなさい、待たせちゃった」


イヤホンを外しながらユウのいるブランコの元へ駆け寄る。
ユウはちょっと笑って

「いいよー」

とだけ言った。
私は隣のブランコに座って、ただ黙ってた。ユウもなにも言わない。沈黙に先に負けたのは、私。


「明日の1限、大丈夫ですか?」
「うん…それより責任感じたんだよね」
「なんで?」
「俺が余計なこと言わなければ、泣かなくてすんだのに」
「でも、いつかはこうなってたし」
「うん、なんてゆうかタイミングとか二人にしかわからないものもあるのに、俺が急がせたから」
「…そうだとしても、先輩には感謝しかしてない」
「…そっか」
「先輩がいなきゃ、彼を好きだったなんて気付かなかった」


そう言ったら、また泣けてきた。
もうユウは何も言わなかった。


「彼にはヒドイこといっぱい言われたし、謝ってもくれなくてすごく悲しかったけど、話せてよかったし」

言葉も涙も止まらなくて、私はきっとひどい顔をしていただろう。


「私が最初に好きになったんです。初めて自分から告白して、でも付き合ってからはすごく彼も私のこと好きになってくれてる気がした。大切にしてくれた。でも、すべて過去だから…いい思い出だけ残して、彼とはさよならします」
「もう、やり直せないの?そんなに好きなのに」
「私だけじゃ恋愛は成立しないし。最初から別れ話になることはわかってたから、覚悟はできてたんです。泣いてたら、すっきりしてきました!」
「…わかりました!愚痴を言いたくなったら、いつでも俺に連絡ください!」


ユウは少しふざけたように言った。泣くだけ泣いた私は、ひどく晴々した気分だった。

それから照れたようにして、ユウは続けて言った。


「てゆうかさ、先輩ってやめない?なんか恥ずかしい」
「じゃあなんて?ユウさん、とか?」
「呼び捨てでいいって、ほんと」
「年上に敬語使わないのは違和感あるんですけどねー」
「じゃあサークルじゃないときの呼び捨てならいいでしょ?」


よくわからない理屈がかわいいな、と思った。ハタチ過ぎの男の人にとっては、なんの褒め言葉にもならないかもしれないけど。


「ユウ」
「何?」
「ありがとうございます」
「え?」
「なんとなく」
「変な子だぁ」


そういってユウは笑ったけど、私は本気で感謝してた。何にって言われたら困るけど。
例えば今日電話にでてくれた事、公園に呼び出してくれて直接会って話を聞こうとしてくれたこと。
私はすごくうれしかった。