あめふり、煙くさいわたし | アマヤドリ

あめふり、煙くさいわたし


雨だった。

いつもと違う広い部屋はしんと静かで、ぽっかりとあいた途中の時間に目が醒めた。
ひどく喉が乾いて水を飲み干す。
はじめにカーテンを開けたときには道は乾いていたのに、雨だった。
見渡すかぎりのアスファルトの、降り始めの匂いを想う。

このホテルに残っているのはもうほとんど私だけだと思うと不思議な気持ちになる。
ハーモニカのようにすかすかとぽっかり部屋を残して、みんな同じところへ引き抜かれていっているのかと思うと。


傘がないからフードをかぶって歩いた。少し慌てているから汗をかいてしまう。
もうだいぶあたたかいけれどその汗がすぐに冷えるくらいには、まだ涼しい。大股で、湿気を呼吸しながら歩く。

道がわからないと途中の小さな階段とかにもなんとなく登ってみたくなる。新たな枝分かれを試みたらもしかしたらひらけるかもしれないと考えて。
けれどじっと我慢してとにかく最初に信じたところまでは行ってみるべきだ。
それが迷子ごっこで得た法則。
目線だけじゃなく足がむいたらやっと、曲がってみてもよい。

地図ではわからなかった立体を越えてみてやっと駅をみつけて辿り着く。

ホテルにちゃんとこれたの?
と会社のみんなに聞かれる。
あまりにも遅い時間に辿り着いたから誰も私がちゃんとあの部屋のひとつにおさまっていたことを知らないのだ。
最後にチェックインして、最後にチェックアウトする。
なんて迷惑な客なんだろう。


夕方から事務所の上で焼肉大会があった。
いつもはぴしっと厳しく真面目に接しなきゃいけない職人さんたち(私の仕事はあら探しが主なのだ) とでれでれ肉を食べたりビールを飲んだりすることがやたらと嬉しい。

おなかいっぱい肉を食べさせてもらい外に出ると、どしゃ降りだった。
地面をたたくしぶきの音を聴きたくてヘッドフォンを外した。