ひとつきり
月がやけに明るく部屋に差し込んでいたのでベランダに出た。
空気は思いがけず湿り気をおびていてまるで森のなかのようだった。
足さきからしんなり冷えたけれど、月のありかを探す。
満月じゃないんだ、と思う。
街をみて、森でもない、と思う。
月あかりに照らされた足の甲の白さが静かだった。
星が滲まない濃い空だったけれど私の視界の端にはベランダの天井と、空ににゅっと突き出た植物があったから、落ちてゆきそうな感触はない。
もしこの空に月がたったひとつでなかったらこんなに想いをはせるだろうか。
たったひとつ、という憧憬を教えてくれたのが月なのかもしれない。
23日の月は十三夜の月。
中秋の名月を特別な気持ちで待ったからこのひかりが呼んでくれたのかもしれない。
