『断絶』 | アマヤドリ

『断絶』

モカシンや中途半端な長い髪やちょっと可愛いセーターや。
まさにイメージのなかの70年代。
ビーチボーイズのデニス・ウィルソンなんて実際には知りもしないのに、村上春樹と結び付いてこれも70年代の匂い(香り、じゃなく)を放つ。
この登場人物たちのような生き方を誰もがしていた(ように見える)70年代ってすごい時代だ。

シボレーのエンジン音がしぶくていい。
ついこのあいだ、車を手に入れるとしたらどんな車がいいかと友達と話して「私はエロい車に乗りたい」と発言してびっくりされた。が、私がイメージしていたのはたぶんこんな、古いアメ車とかヨーロッパ車のこと。

ガソリンの匂いは嫌いだけどエンジンの音は好きだなぁ。こんなふうにくぐもった、不機嫌な雲を震わせるような音。


GTOに乗るおじさんが最初はなんだか好きになれなかった。口をまげて笑うところも目を縁取る頭蓋骨のかたちもそこにできる照りとしわも。手塚治虫の漫画に出てくるぬめっとした刑事役のキャラクターみたい。
骨に張りつく肉もそこに巻毛がはりつくのも、苦手だ。と思って見ていた。
けれど旅するうちにだんだん悲哀みたいなものが滲んで見えてくるようになってくる。嘘ばかり軽くぽんぽんと出てくるその口を動かす彼に積もったあれこれを、痛みに似た感覚とともに想像することになる。
この痛みは自分のちょっとした恥とか小さな後悔とか…取り沙汰するほどでもない、けれどかっこわるさを大人なフリをしてぽい捨てしている自分との対比からきたものなのかもしれない。
つまりおじさんへの哀と、自分への悲、のような。

おじさんはすごく人間らしかった。
ぬめりなのに、ナンバープレートと格闘して子供みたいに眠り込んだりしちゃう。
私がおじさんのことばかり書くのは私がこの年でこれを見たからなのだろうなぁという気がする。

女の子はとてもリアルだった。
最後のほうにおじさんと入ったカフェの後ろの棚がやたらと色鮮やかなおもちゃだらけで可愛かった。


ラストが衝撃的だと何かで読んだことがあってどういうことなんだろうと思っていたけれど、なるほどな、だった。
その震源地のことだけはわかっているのに、やり場をうまくみつけることができない、ように見える彼のなかの感情。からだの幅よりも大きく揺らすまいとしているかのような。
だけどふつふつとそれはたぎっていて、ああやっぱりな、と思うこちらの共感を急に追い抜いて増幅し、あっと気付いたときには臨界してる。
そんな、ラスト。

埃くさくて苦くて乾草の匂いがするみたいなロードムービーでした。
キング
断絶