あきのはじまり
厚い雲が張りついた夜空全体がゆっくりと北へむかっていた。
足並みを乱さず進むようでいて細かなうずが端にうまれ、それに気付くともう空はひとつではなかった。
毎日見上げる空は違うけれどこの雲のずっとうえのほうは変わらぬ闇なのだということがうまくふにおちない。
この夏にこころにとめた景色をなるたけたくさん思い出そうと考える。
ほんとうにみたものも、この目ではみなかったものも。
浮かんだものを味わう前に、細かに描写できぬままに、それは瞬間に通り過ぎていってしまう。長い文章を書けないのはこのためかもしれないと思う。
23時の静けさをやぶらないようにあかい電気だけをつけて長いこと話した。
どこかにいきつくことを目的としない、色をおいていくような会話。
けれど私はそれが特別なものだとは思わない。私はそんなふうにしか、うまれることたちをそこにとどめることができないという、ただそれだけのこと。
強いのではなく、強くありたいだけだ。
というそのことは私のなかでは真理だけれど、誰しもがそう思えるほどものごとを忘れられるわけじゃない。
けれど私が母のことを否定したことはない、ということだけは感じてもらえたらいいと思う。
その部分だけはあの会話のなかで唯一意識的なものだったような気がする。
小さな足音を夜のランナーだと思いふりかえると、それは乾いた葉が地面をひっかく音だった。
枯葉は秋にだけ落ちるわけではないことに、夏が終わった今日、はじめて思い至る。
