いいこいいこ
私の夢にはある女の子が時々出てくる。決まった誰かではないけれどいつも同じかんじのする女の子。
とても大事で、とても透明で、白くて、ふっとすぐに気まぐれで消えてしまいそうな中性的な女の子。
時には子供の姿をとり、時には私くらいの年齢で現れる。
私にとって守るべき存在であるらしく、私の年以上であることはない。夢のシチュエーションもなかなか見つからないその子を懸命に見つけたり、危ないところを危険を感じ取らせないように守ったり、出会うだけで涙が出たり、そんなかんじ。
寝言でよく、その女の子のことを話すそうだ。
あの子に渡して、とか、女の子がこっちにくる、とか。
それを聞いているひとは怖いだろうな。私にしてみれば全然怖い存在ではないのだけれど。
私には実はもうひとりきょうだいがいた。
私が母に風疹を伝染してしまったことが原因で生まれてこれなかったのだけれど。
私はそのことを長いことしらなかった。
だけどあるときから私の夢の中にはもうひとりのきょうだいが現れるようになった。
たいていは、妹。時にはお兄ちゃん。
夢の中で私は3人きょうだいでそのことが自分のなかですごくしっくりいっていた。
でも次第にその夢が苦しくなってきた。私はもうひとりのその女の子をいつも夢の中で探すようになったのだ。時には誘拐されたその子を焦燥感の中でさがす。時には、もう死んでしまっていることを知っていながら探す。
水の底にその子が沈んでいるのをどうしても見ることができなくて見なかったふりをして夜が来るまで探し回ったこともある。
そういう自分のなかの鋭い部分が一番どうしようもないノイズを発していた17歳くらいのとき、私はその夢を母に伝え、そしてもうひとりのきょうだいのことを知った。
こころのどこかで私がちゃんとその子のことを知っていたことに安堵した。
夢のなかの女の子は相変わらず時々訪れるけれど、それはもう不安を与える存在じゃなかった。
大事で、壊れやすくてやわらかくて華奢で、どんなものからも守ってあげたいような。
そういう話を友達にしたら、それはきっと君自身なんだね、とあっさりと言われた。
もちろん私はその夢の子のことをそのきょうだいの霊だと思ったことはない。多分私は無意識のうちにそのきょうだいのことを知っていて、それを夢に出演させていたんだろうと思っていた。
でも、そのおんなのこは君がずっと守ってきた、守りたい、自分なんだね、と言われたときに、薄いガラスがぱーんと割れたような気がした。
あの懐かしさやいとおしさの種類は、あの切ない気持ちや去られたくなくて涙が出てしまう感情は、まぎれもなく、そうかもしれない。
私は私のことを、いいこいいこしたかったんだ。
私は私のことを、見つけ出してあげたかったんだ。
私は私のことを、ずっと守ってゆくと決心したんだった。
普段は自分のことを図太くて強くて、わははっと笑い飛ばせて、ほおっておいてもちょっとやそっとじゃ折れない、と思ってるくせに。
私のなかのほんの一部は、こんなにも、細い腕を伸ばしてる。
そのことが可笑しく、ちょっとせつなくもあった。
私はいもうとだ、と理由をつけなければ、自分のそんなところを認めることができなかったのだろう。
今でもときどきおんなのこはあらわれる。