無題
雲の隙間から差した薄い陽が大きな車庫の銀色のふちを照らすと雨上がりのようだった。
どこも濡れていないのに、湿った匂いもしないのに、雨上がりとちょうど同じ明るさで同じ色あいだった。
私は灰色の、ろばの毛皮を肩にかけている。
イーオーみたいにくたびれた毛足で一人で着るにはいくぶん長すぎる毛皮。
夜の闇にまぎれるかと思って着ていたんだと思う。
隣のうつむいたそのひとをそっと見上げる。
もしかしたら誰が見ても眠っているようにしか見えないのかもしれないけれど、瞳の奥ではちかちかおき火のように光が踊っている。
ほっとしながら私は、息を殺してそれを覗き込む。
ろばの毛皮を着ているから彼は私には気付かないはずだ。
できる限り近づいて、私が透明な事も同時に確かめる。
その時ふいに電車がゆれて私はぐらりと傾いだ彼の腰の辺りを支えた。
ひやりと冷えた薄い皮膚の下の、もっと冷えた尖った骨をてのひらに感じる。
鯛の頭蓋骨みたい、と思う。
こんなところに骨があることを知らなかったから、それを大事に指でなぞる。
もう一度瞬くひかりが消えていないことを確かめる。
そしてこの私が触れている真っ白な腰骨やうなだれた翼のような肩甲骨の中心を流れ、ひとつに連ね、積みあげているものに想いをめぐらす。
ひとりぼっちの月とその骨をあたためるために、
もうひとつの手でそれを包んだ。